2024年12月9日月曜日

心理的安全性の高い職場作りを考えよう! ※2026年6月 情報を更新しました

まず、こちらの動画をぜひご覧ください。

(YouTube動画)


「心理的安全性」という言葉を、みなさんはご存知ですか?

最近、職場や教育の現場でよく聞くようになったこの言葉。でも「なんとなく知っている」という方も多いのではないでしょうか。

私が心理的安全性という概念に本気で向き合うようになったのは、薬局長という立場になってからです。


心理的安全性とは何か

心理的安全性(Psychological Safety)とは、「チームの中で、自分の考えや疑問、ミスを率直に発言しても、罰せられたり恥をかかされたりしない」と感じられる環境のことです。

ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授が1999年に提唱した概念で、後にGoogleが自社の調査「Project Aristotle」で「最も生産性の高いチームに共通する最重要因子は心理的安全性だ」と発表したことで、世界中に広まりました。

難しく聞こえますが、要するに**「この場では何でも言っていい」と全員が感じられるかどうか**です。


病院という職場で、心理的安全性がなぜ重要なのか

医療現場では、心理的安全性の有無が患者さんの安全に直結します。

「この処方、少しおかしいかもしれないけど……先生に言いづらいな」「ミスに気づいたけど、怒られるのが怖くて報告できない」

こうした「言えない空気」が、インシデントや医療事故の背景にあることは少なくありません。

逆に心理的安全性の高い職場では、「少し気になることがあるんですが……」という小さな声が上がりやすくなります。その一言が、大きな事故を未然に防ぐことがあります。

22年間病院薬剤師として働いてきた中で、これを何度も実感してきました。


心理的安全性を下げる「4つの不安」

エドモンドソン教授は、心理的安全性を妨げる要因として以下の4つの不安を挙げています。

① 無知だと思われる不安「こんなことも知らないのか」と思われたくないから、わからなくても質問できない。

② 無能だと思われる不安「こんなミスをするのか」と思われたくないから、失敗を隠す・報告しない。

③ 邪魔をしていると思われる不安「そんな余計なことを言って」と思われたくないから、意見や提案をしない。

④ ネガティブだと思われる不安「批判的な人だ」と思われたくないから、問題点を指摘しない。

この4つ、医療現場でも職種を超えてよく見られる心理です。特に「無知・無能と思われる不安」は、新人スタッフや異動してきたばかりのメンバーが感じやすいものです。


薬局長として、私が意識してきたこと

心理的安全性は「仲良し職場を作ること」ではありません。ぬるい環境を作ることでもない。

**「意見や失敗を率直に出せる環境の中で、高い目標に挑戦できること」**がゴールです。

私が薬局長として特に意識してきたのは、以下の3点です。

自分のミスや失敗を率直に開示する 上司や先輩が「実はこの前こういうミスをして、こう対処した」と話せると、スタッフも報告しやすくなります。謝れる上司は弱い上司ではなく、チームに安心感を与える存在です。

「いい質問だね」を口癖にする 「そんなこと聞くの?」という反応が一度あると、その人は二度と質問しなくなります。どんな質問にも「よく気づいたね」「いい視点だね」と反応することで、発言のハードルを下げられます。

失敗を責めず、仕組みを問う 「なぜそんなことをしたの?」ではなく、「どういう状況でそうなったの?次はどうすればいい?」という問いかけへ変える。これだけでスタッフの報告率が変わります。


心理的安全性は一朝一夕では作れない

心理的安全性の高い職場は、「今日から仲良くしよう」という宣言で生まれるものではありません。

日常の小さなやり取りの積み重ねによって、少しずつ醸成されていくものです。

上司の一言、先輩の反応、ミスへの対処の仕方、会議での発言へのリアクション——こうした日々の行動が、職場の空気を作っていきます。

リーダーの役割は、その「空気の土台」を意識的に整え続けることだと感じています。


まとめ

  • 心理的安全性とは「何でも言える安心感」——仲良し職場とは違う
  • 医療現場では患者安全に直結する重要な概念
  • 4つの不安(無知・無能・邪魔・ネガティブと思われること)が発言を妨げる
  • リーダーが率先して失敗を開示し、発言を歓迎する姿勢が土台を作る
  • 日々の小さな積み重ねが職場の空気を変えていく

動画と合わせて、少しでも参考になれば嬉しいです。

心理的安全性について、もっと詳しく知りたい方はエイミー・エドモンドソン著『恐れのない組織』もおすすめです。


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2024年5月30日木曜日

NST(栄養サポートチーム)における薬剤師の介入とは?NST専門療法士が現場から解説 ※2026年6月 情報を更新しました

まず、こちらの動画をご覧ください。

はじめに:薬剤師がNSTに関わる意味

「栄養管理って、医師や管理栄養士の仕事じゃないの?」

NSTに関わり始めた頃、そう思っていた時期が私にもありました。

しかし22年間病院薬剤師として働き、NST専門療法士の資格を取得した今は、全く逆の確信を持っています。

薬剤師がNSTに介入することで、患者さんの栄養管理は確実に変わります。

その理由を、この記事で具体的にお伝えします。


NSTとは何か

**NST(Nutrition Support Team:栄養サポートチーム)**とは、患者さんの栄養状態を評価・管理・改善するために多職種が連携して活動するチームです。

通常は医師・看護師・管理栄養士・薬剤師・言語聴覚士・リハビリスタッフなどで構成されます。

NSTが重要視される背景には、病院内の低栄養問題があります。入院患者の30〜50%が低栄養状態にあるとも言われており、低栄養は感染症リスクの上昇・創傷治癒の遅延・在院日数の延長・死亡率の増加など、多くの悪影響をもたらします。

適切な栄養管理によってこれらを改善することが、NSTの目的です。


薬剤師がNSTで担う役割

薬剤師がNSTで果たせる役割は、他職種には代えがたいものがあります。主に以下の5つです。

① 薬物と栄養の相互作用の管理

薬と食事・栄養剤の間には様々な相互作用があります。たとえばワルファリンとビタミンKを多く含む栄養剤の組み合わせ、フェニトインと経腸栄養剤の吸収干渉、MAO阻害薬とチラミン含有食品の危険な組み合わせなど。これらを把握して適切な指示を出せるのは薬剤師ならではの専門性です。

② TPN(完全静脈栄養)の処方設計への参加

TPNの処方は糖・アミノ酸・脂肪・電解質・微量元素・ビタミンのバランスを精密に計算する必要があります。薬剤師はその処方内容を評価し、配合変化・過不足・腎機能や肝機能に応じた調整について医師に提案します。特にリフィーディング症候群(長期絶食後の栄養再開時に起こる電解質異常)の予防は、薬剤師の介入が重要な場面のひとつです。

③ 投与経路の適切性評価

「経口→経腸→静脈」という栄養投与の優先順位(Gut is Gold の原則)を常に意識しながら、現在の投与経路が患者さんにとって最善かを薬剤師の視点から評価します。また経腸栄養剤の種類選択(標準的な栄養剤か、疾患特異的な栄養剤か)についても提案できます。

④ 薬剤の栄養状態への影響の評価

ステロイド投与による筋肉量の減少、利尿薬による電解質異常、一部の抗菌薬によるビタミンK欠乏——多くの薬剤が栄養状態や栄養素の代謝に影響を与えます。処方全体を把握している薬剤師だからこそ、こうした視点でNSTラウンドに貢献できます。

⑤ 簡易懸濁法・経管投与可能な薬剤の確認

経腸栄養を行っている患者さんでは、内服薬を経管投与する場面が生じます。どの薬剤が粉砕・簡易懸濁法に適しているか、経管投与時の注意点は何か——これも薬剤師の専門知識が直接役に立つ場面です。


NSTラウンドで薬剤師が見ているポイント

実際のNSTラウンドで私が特に意識しているチェックポイントを共有します。

リン・マグネシウム・亜鉛などの微量元素

長期TPNや経腸栄養の患者さんでは、これらの微量元素が欠乏しやすく見落とされがちです。特にリン欠乏は重篤な症状(呼吸筋力低下・意識障害)につながることがあります。定期的なモニタリングと補充の提案を行います。

薬剤起因性の食欲低下・消化器症状

「食欲がない」「吐き気がある」という患者さんの背景に、薬剤の副作用が隠れていることがあります。NST介入前に薬剤整理が必要なケースは少なくありません。


NST専門療法士とは

NST専門療法士は、日本静脈経腸栄養学会(現:日本臨床栄養代謝学会)が認定する資格で、医師・看護師・薬剤師・管理栄養士・臨床検査技師など複数の職種が取得できます。

取得には一定の臨床経験とセミナー受講・試験合格が必要であり、NST活動における高い専門性の証明になります。

私が取得したのは鹿児島での勤務時代——離島(沖永良部島)での医療経験も含めて、栄養管理の重要性を身をもって感じてきた積み重ねが、この資格への挑戦につながりました。


離島・僻地医療とNST:私の原点

沖永良部島で勤務していた頃、専門スタッフが少ない環境の中で、薬剤師として栄養管理に深く関わらざるを得ない場面が何度もありました。

管理栄養士がいない日も、医師が一人しかいない夜も、「この患者さんの栄養をどうするか」を薬剤師として考え続けた経験が、私のNSTへの向き合い方の原点です。

「薬剤師にできることはもっとある」という感覚は、あの離島での日々から生まれました。


薬学生・若手薬剤師へ:NSTに積極的に関わってほしい理由

NSTへの参加をためらっている薬剤師・薬学生に、一つだけ伝えたいことがあります。

NSTは、薬剤師がチーム医療の中で専門性を発揮できる最も分かりやすいフィールドのひとつです。

処方監査・服薬指導といった「薬剤師らしい仕事」の外に踏み出すことで、他職種からの見え方が大きく変わります。「この薬剤師はNSTでも動いてくれる」という信頼は、日常の業務でも必ず返ってきます。

栄養の知識は特別難しいものではありません。まずNSTラウンドに参加し、カルテを読み、疑問を口にするところから始めれば十分です。


まとめ

  • NSTは多職種で患者の栄養管理を行うチーム。入院患者の低栄養改善が目的
  • 薬剤師の主な役割は薬と栄養の相互作用管理・TPN処方設計・投与経路評価・微量元素モニタリング・簡易懸濁法の確認
  • リフィーディング症候群・微量元素欠乏は見落とされやすく薬剤師の目が重要
  • NSTは薬剤師がチーム医療で専門性を発揮できる絶好のフィールド
  • まずラウンドに参加することが最初の一歩

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