はじめに:薬剤師がNSTに関わる意味
「栄養管理って、医師や管理栄養士の仕事じゃないの?」
NSTに関わり始めた頃、そう思っていた時期が私にもありました。
しかし22年間病院薬剤師として働き、NST専門療法士の資格を取得した今は、全く逆の確信を持っています。
薬剤師がNSTに介入することで、患者さんの栄養管理は確実に変わります。
その理由を、この記事で具体的にお伝えします。
NSTとは何か
**NST(Nutrition Support Team:栄養サポートチーム)**とは、患者さんの栄養状態を評価・管理・改善するために多職種が連携して活動するチームです。
通常は医師・看護師・管理栄養士・薬剤師・言語聴覚士・リハビリスタッフなどで構成されます。
NSTが重要視される背景には、病院内の低栄養問題があります。入院患者の30〜50%が低栄養状態にあるとも言われており、低栄養は感染症リスクの上昇・創傷治癒の遅延・在院日数の延長・死亡率の増加など、多くの悪影響をもたらします。
適切な栄養管理によってこれらを改善することが、NSTの目的です。
薬剤師がNSTで担う役割
薬剤師がNSTで果たせる役割は、他職種には代えがたいものがあります。主に以下の5つです。
① 薬物と栄養の相互作用の管理
薬と食事・栄養剤の間には様々な相互作用があります。たとえばワルファリンとビタミンKを多く含む栄養剤の組み合わせ、フェニトインと経腸栄養剤の吸収干渉、MAO阻害薬とチラミン含有食品の危険な組み合わせなど。これらを把握して適切な指示を出せるのは薬剤師ならではの専門性です。
② TPN(完全静脈栄養)の処方設計への参加
TPNの処方は糖・アミノ酸・脂肪・電解質・微量元素・ビタミンのバランスを精密に計算する必要があります。薬剤師はその処方内容を評価し、配合変化・過不足・腎機能や肝機能に応じた調整について医師に提案します。特にリフィーディング症候群(長期絶食後の栄養再開時に起こる電解質異常)の予防は、薬剤師の介入が重要な場面のひとつです。
③ 投与経路の適切性評価
「経口→経腸→静脈」という栄養投与の優先順位(Gut is Gold の原則)を常に意識しながら、現在の投与経路が患者さんにとって最善かを薬剤師の視点から評価します。また経腸栄養剤の種類選択(標準的な栄養剤か、疾患特異的な栄養剤か)についても提案できます。
④ 薬剤の栄養状態への影響の評価
ステロイド投与による筋肉量の減少、利尿薬による電解質異常、一部の抗菌薬によるビタミンK欠乏——多くの薬剤が栄養状態や栄養素の代謝に影響を与えます。処方全体を把握している薬剤師だからこそ、こうした視点でNSTラウンドに貢献できます。
⑤ 簡易懸濁法・経管投与可能な薬剤の確認
経腸栄養を行っている患者さんでは、内服薬を経管投与する場面が生じます。どの薬剤が粉砕・簡易懸濁法に適しているか、経管投与時の注意点は何か——これも薬剤師の専門知識が直接役に立つ場面です。
NSTラウンドで薬剤師が見ているポイント
実際のNSTラウンドで私が特に意識しているチェックポイントを共有します。
リン・マグネシウム・亜鉛などの微量元素
長期TPNや経腸栄養の患者さんでは、これらの微量元素が欠乏しやすく見落とされがちです。特にリン欠乏は重篤な症状(呼吸筋力低下・意識障害)につながることがあります。定期的なモニタリングと補充の提案を行います。
薬剤起因性の食欲低下・消化器症状
「食欲がない」「吐き気がある」という患者さんの背景に、薬剤の副作用が隠れていることがあります。NST介入前に薬剤整理が必要なケースは少なくありません。
NST専門療法士とは
NST専門療法士は、日本静脈経腸栄養学会(現:日本臨床栄養代謝学会)が認定する資格で、医師・看護師・薬剤師・管理栄養士・臨床検査技師など複数の職種が取得できます。
取得には一定の臨床経験とセミナー受講・試験合格が必要であり、NST活動における高い専門性の証明になります。
私が取得したのは鹿児島での勤務時代——離島(沖永良部島)での医療経験も含めて、栄養管理の重要性を身をもって感じてきた積み重ねが、この資格への挑戦につながりました。
離島・僻地医療とNST:私の原点
沖永良部島で勤務していた頃、専門スタッフが少ない環境の中で、薬剤師として栄養管理に深く関わらざるを得ない場面が何度もありました。
管理栄養士がいない日も、医師が一人しかいない夜も、「この患者さんの栄養をどうするか」を薬剤師として考え続けた経験が、私のNSTへの向き合い方の原点です。
「薬剤師にできることはもっとある」という感覚は、あの離島での日々から生まれました。
薬学生・若手薬剤師へ:NSTに積極的に関わってほしい理由
NSTへの参加をためらっている薬剤師・薬学生に、一つだけ伝えたいことがあります。
NSTは、薬剤師がチーム医療の中で専門性を発揮できる最も分かりやすいフィールドのひとつです。
処方監査・服薬指導といった「薬剤師らしい仕事」の外に踏み出すことで、他職種からの見え方が大きく変わります。「この薬剤師はNSTでも動いてくれる」という信頼は、日常の業務でも必ず返ってきます。
栄養の知識は特別難しいものではありません。まずNSTラウンドに参加し、カルテを読み、疑問を口にするところから始めれば十分です。
まとめ
- NSTは多職種で患者の栄養管理を行うチーム。入院患者の低栄養改善が目的
- 薬剤師の主な役割は薬と栄養の相互作用管理・TPN処方設計・投与経路評価・微量元素モニタリング・簡易懸濁法の確認
- リフィーディング症候群・微量元素欠乏は見落とされやすく薬剤師の目が重要
- NSTは薬剤師がチーム医療で専門性を発揮できる絶好のフィールド
- まずラウンドに参加することが最初の一歩
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