こんばんは、田浦マインドです。
「避難所に来た人が『薬が切れた』と言っている。どの薬を優先して手配すればいい?」
これが「薬事トリアージ」の出番です。医療トリアージが傷病者の重症度を分類するように、薬事トリアージは薬剤継続の緊急度を分類します。
薬事トリアージとは
処方箋・お薬手帳がない状況でも、薬剤師が即座に「この薬は今すぐ必要か、数日待てるか」を判断して行動するためのフレームワークです。
分類は医療トリアージと同じ3色です。
🔴 赤(最優先)——今すぐ確保
基準:中断すると数時間〜数日以内に生命危機
代表的な薬剤:
- インスリン(注射・内服):3日中断で高血糖性ケトアシドーシス(DKA)→死亡リスク
- 抗凝固薬(ワーファリン・DOAC):脳梗塞・肺塞栓→突然死リスク
- 抗てんかん薬:痙攣重積→脳障害・窒息リスク
- 抗精神病薬・気分安定薬:急性精神症状再燃・自傷他害リスク
- 透析患者の薬(リン吸着薬等):電解質異常→致死性不整脈
- 副腎不全ステロイド:副腎クリーゼリスク
対応:今すぐ確保。医師へ緊急連絡。代替薬を至急手配。
🟡 黄(優先)——48〜72時間以内に対応
基準:中断すると数日〜1週間以内に症状悪化
代表的な薬剤:
- 降圧薬(特に合併症あり):血圧コントロール悪化
- 心不全治療薬(利尿剤・βブロッカー):急性増悪リスク
- COPD・喘息の吸入薬:発作・呼吸不全
- 甲状腺薬(レボチロキシン等):代謝異常
- ステロイド長期内服者:離脱症状
- パーキンソン病薬:症状急激悪化
対応:近隣薬局・卸業者に照会。数日分を緊急確保。
🟢 緑(待機可)——1週間以内に対応
基準:数日〜1週間程度は待機可能
代表的な薬剤:
- ビタミン・サプリメント・栄養補助食品
- 軽度の鎮痛薬(安静で対応可能な場合)
- 皮膚科・眼科の一般外用薬
- 軽度の不眠・不安の薬(症状が軽い場合)
- 胃腸薬・整腸剤(軽症)
対応:記録して保留。供給が安定してから対応。
判断のコツ——よくある迷いどころ
Q. ワーファリンは赤?黄?
→ 基本は黄。ただし「最後の服薬から3日以上経過」「動悸・胸痛あり」なら赤扱いで即対応。
Q. 血圧の薬が切れたが症状なし
→ 残薬がある間は緑。残薬がゼロになる日を計算して、切れる前に黄として対応開始。
Q. 抗精神病薬、本人が「大丈夫」と言っている
→ 赤。本人の自覚では判断しない。離脱症状・症状再燃は急速に進行する。
Q. 複数の薬が切れた患者、何から対応する?
→ 薬ごとに個別にトリアージ。インスリン+降圧薬なら、インスリンを赤として先に対応。
Q. 緑だったが翌日来て「めまいがする」
→ 再評価して黄または赤に昇格。状態は常に変化する。1回の判断で終わりにしない。
実際の場面を想定してみよう
患者Aさん(68歳・男性)
「インスリンを3日間打てていない。口が渇いて体がだるい」
常用薬:インスリン グラルギン10単位/就寝前 + メトホルミン250mg毎食後
→ 🔴 赤。 DKAの前兆(口渇・倦怠感)あり。今すぐ医師に連絡。インスリン・針・血糖測定器を緊急確保。メトホルミンは黄として48時間以内に対応。
患者Bさん(72歳・女性)
「ワーファリンが今日で切れる。心臓の病気がある」
常用薬:ワーファリン2mg 1錠 夕食後
→ 🟡 黄。 今日切れたばかりなので即死ではないが、数日以内に血栓リスクが上昇。48時間以内に確保。近隣薬局・卸に照会。INR測定不可でも継続優先。
患者Cさん(55歳・男性)
「血圧の薬が切れた。今は頭痛もない」
常用薬:アムロジピン5mg 朝1錠(残薬:3日分あり)
→ 🟢 緑。 残薬で経過観察。3日後に切れる前に黄として手配開始。
ポケットカードを持っておこう
薬事トリアージは判断が速いほど命を守れます。迷った時のために「赤・黄・緑の代表薬一覧ポケットカード」を事前に作成しておくことをおすすめします。
「赤か黄かを素早く見分けるコツ」は——「中断で即座に症状が出るか」「その場で医師を呼ぶべきか」「3日以上途絶えているか」の3点です。
まとめ
- 薬事トリアージ:薬剤継続の緊急度を赤・黄・緑で分類
- 赤:インスリン・抗凝固薬・抗てんかん薬・抗精神病薬・透析患者の薬
- 黄:降圧薬(合併症あり)・心不全薬・吸入薬・甲状腺薬・ステロイド
- 緑:ビタミン・サプリ・軽度鎮痛薬・一般皮膚科・眼科薬
- 判断は一回で終わらない——継続的に再評価する
次回は、2024年能登半島地震での派遣体験をお伝えします。
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