2026年9月1日火曜日

薬剤師のRA服薬支援とTake Home Message:シリーズ総まとめ【RAシリーズ⑫・完結】

 関節リウマチシリーズ最終回です。薬剤師としてRA患者さんに提供できる服薬支援と、シリーズ全体のまとめをお届けします。


RAシリーズ全12回の旅

①関節リウマチとは?疫学・病態・サイトカインの役割 

②「治療機会の窓」:早期治療が関節破壊を防ぐ 

③T2T(目標に向けた治療)の考え方 

④RA薬物療法の全体像:csDMARD・bDMARD・tsDMARDの分類 

⑤MTX:RA治療のアンカードラッグ 

⑥ステロイド(GC)の正しい使い方 

⑦生物学的製剤①:TNF阻害薬 

⑧生物学的製剤②:IL-6阻害薬・T細胞共刺激阻害薬 

⑨JAK阻害薬と帯状疱疹リスク 

⑩バイオシミラーの活用 

⑪ワクチン接種・手術時の休薬管理 

⑫薬剤師のRA服薬支援・総まとめ(本記事)


Take Home Message

スライドにあった5つのTake Home Messageを軸に整理します。

① 治療薬物の基本はMTX(アンカードラッグ)

MTXはRA治療の土台。高齢者・糖尿病・肺疾患・腎機能障害などの既往や合併症がある患者さんには用量調整・慎重投与が必要です。

薬剤師として確認すること:

  • 腎機能(eGFR)の確認:MTXの腎排泄が遅延するとリスク大
  • 葉酸の併用確認:副作用軽減
  • アルコール摂取の確認:肝障害リスク
  • 脱水・感染時の休薬の確認

② 有効性・安全性に加え、経済性も考えた共有意思決定

生物学的製剤は高額。バイオシミラーや治療目標に合った選択で経済的負担を考える。患者さんと一緒に治療方針を決める「共有意思決定」が重要。

薬剤師として提供できること:

  • バイオシミラーの情報提供
  • 高額療養費制度の案内
  • 経済的負担を確認し、継続できる治療を支援

③ 少なくとも1回/3ヶ月は採血を含む診察と治療方針の見直し

T2Tの考え方に基づき、疾患活動性を定期的に数値で評価し続けることが重要。

薬剤師として確認すること:

  • 「最近、採血はされましたか?」と受診の継続を確認
  • 採血結果の異常(白血球減少・肝機能上昇・腎機能低下など)への気づき

④ インフルエンザ・肺炎球菌・帯状疱疹などのワクチン接種を促す

免疫抑制療法中のRA患者さんへのワクチン接種は生死に関わる問題です。

薬剤師として確認すること:

  • インフルエンザワクチン接種の確認(毎年秋)
  • 肺炎球菌ワクチン接種の確認
  • 帯状疱疹ワクチン(シングリックス)の接種確認(特にJAK阻害薬使用患者)

薬剤師がRA患者さんに提供できる服薬支援

服薬指導での確認事項チェックリスト

MTX使用患者に確認すること: 

□ 週1回(何曜日か)しっかり飲んでいるか 

□ 葉酸は翌日に飲んでいるか 

□ 口内炎・吐き気・倦怠感の有無 

□ 発熱・咳・息切れの有無(MTX肺炎の早期発見) 

□ 脱水になりやすい状況の確認 

□ アルコール摂取状況 

□ 3ヶ月に1回の採血受診の確認

生物学的製剤使用患者に確認すること: 

□ 自己注射の手技に問題はないか 

□ 注射部位の反応の有無 

□ 発熱・感染症症状の有無(感染がマスクされる可能性) 

□ 結核・HBVの初回スクリーニング結果の確認 

□ ワクチン接種状況 

□ 手術予定の有無(→休薬スケジュールの確認)

JAK阻害薬使用患者に確認すること: 

□ 毎日の内服忘れがないか 

□ 帯状疱疹ワクチン接種の確認 

□ 帯状疱疹の初期症状の説明(「体の片側に水疱が出たら受診を」) 

□ 腎機能(バリシチニブ・フィルゴチニブは腎機能低下で用量調整)


Y-RAP(Yamato RA Pharma)

「Y-RAP(Yamato RA Pharma)」は、奈良県近隣の病院・クリニック・薬局が連携してRA患者さんのアドヒアランス向上と薬薬連携を推進するグループです。

Y-RAPの取り組み 検討中

  • リウマチ治療の定期的な学習の機会提供
  • 共同研究
  • リウマチ連携手帳

超高齢化が進む日本で、慢性疾患であるRAの継続的なモニタリングは必須です。薬剤師同士のつながりを強化し、患者さんの良好なアドヒアランス維持に貢献することが目標です。


RA治療の変遷と今後

1980年代までは「痛みを鎮める」ことが主な目標でした。

1990年代:関節破壊の進行抑制が目標に 2000年代:寛解の達成が目標に 2010年代:寛解の維持とテーパリング(薬剤減量)が目標に 2020年代〜:個別化・精密医療(Precision Medicine)へ

薬剤師に求められる役割もこの変化とともに高まっています。患者さんの「薬のパートナー」として、長期的な治療の継続を支援することが重要です。


全12記事のまとめ表

記事キーメッセージ
① 疫学・病態日本に約83万人。女性に3倍多い。TNF-α・IL-6が中心
② 治療機会の窓発症2年以内が最重要。早期治療で関節破壊を最小に
③ T2T「寛解」を数値目標に。3ヶ月ごとに評価・見直し
④ 薬物療法全体像csDMARD(MTX)→bDMARD or JAKi の段階的治療
⑤ MTXアンカードラッグ。週1回。MTX肺炎・骨髄障害に注意
⑥ ステロイド補助的。短期・最小量・漸減中止。骨粗鬆症予防必須
⑦ TNF阻害薬最初の生物学的製剤。結核スクリーニング必須
⑧ IL-6・アバタセプトTNF無効に有効。感染時炎症マスクに注意
⑨ JAK阻害薬内服可能。帯状疱疹リスク高い。シングリックス推奨
⑩ バイオシミラー先行品の40〜60%の薬価。患者の経済的負担軽減
⑪ ワクチン・休薬インフル・肺炎球菌・帯状疱疹。手術時は生物学的製剤を休薬
⑫ 総まとめMTXがアンカー。T2T。3ヶ月採血。ワクチン。共有意思決定

最後に

RA治療は「点」ではなく「線」です。一度治療を始めたら、疾患の全経過を通じて薬剤師が患者さんに寄り添い続けることが求められます。

「先生に聞きにくいことを薬剤師さんには話せる」——そういう存在になることが、RA患者さんの治療継続・アドヒアランス向上・QOL改善につながります。

12回、最後までお読みいただきありがとうございました!


RAシリーズ 全12記事一覧

① 関節リウマチとは?疫学・病態・サイトカインの役割 

② 「治療機会の窓」:早期治療が関節破壊を防ぐ 

③ T2T(目標に向けた治療)の考え方 

④ RA薬物療法の全体像:csDMARD・bDMARD・tsDMARD 

⑤ MTX:RA治療のアンカードラッグ 

⑥ ステロイド(GC)の正しい使い方 

⑦ 生物学的製剤①:TNF阻害薬 

⑧ 生物学的製剤②:IL-6阻害薬・T細胞共刺激阻害薬 

⑨ JAK阻害薬の特徴と帯状疱疹リスク 

⑩ バイオシミラー(BS)の活用 

⑪ RA患者へのワクチン接種・手術時の休薬管理 

⑫ 薬剤師のRA服薬支援・総まとめ(本記事・完結)


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講演・研修依頼:toshiki.taura@gmail.com

2026年8月31日月曜日

RA患者へのワクチン接種・手術時の休薬管理【RAシリーズ⑪】

 免疫抑制状態にあるRA患者さんは感染症リスクが高く、ワクチン接種が非常に重要です。また手術が必要な場合は生物学的製剤・JAK阻害薬の休薬が必要です。今回は薬剤師として必ず知っておくべき知識を解説します。


なぜRA患者さんにワクチンが重要なのか

MTX・生物学的製剤・JAK阻害薬などの免疫抑制療法を受けているRA患者さんは、感染症リスクが健常人より著しく高い状態にあります。

特に重篤化しやすい感染症:

  • インフルエンザ
  • 肺炎球菌感染症(肺炎・菌血症)
  • 帯状疱疹
  • 新型コロナウイルス感染症

ワクチン接種は感染症から患者さんを守る最重要の予防策です。


接種推奨のワクチン

インフルエンザワクチン(不活化ワクチン)

毎年1回の接種が推奨

免疫抑制療法中でも接種可能(不活化ワクチンのため)。ただし免疫応答が低下している可能性があるため、早めの接種を勧める。

薬剤師からの声かけ:「毎年秋にインフルエンザの予防接種はされていますか?」


肺炎球菌ワクチン

2種類のワクチンがあります:

PCV15/PCV20(肺炎球菌結合型ワクチン・ニューモバックス上位互換): 初回接種に推奨。T細胞依存性の免疫応答を誘導。

PPSV23(ニューモバックス®NP): 多価莢膜ポリサッカライドワクチン。65歳以上の定期接種。

免疫抑制療法を受けているRA患者さんには積極的に接種を推奨します。


帯状疱疹ワクチン(特にJAK阻害薬使用患者)

シングリックス®(組換えワクチン:RSV-V)

  • 2回接種(初回接種→2ヶ月後に2回目)
  • 免疫抑制患者にも使用可能(生ワクチンではないため)
  • 帯状疱疹予防効果:高齢者でも90%以上
  • JAK阻害薬・生物学的製剤使用患者に強く推奨

水痘・帯状疱疹ワクチン ビケン® (生ワクチン)

  • 生ワクチンのため、免疫抑制療法中は原則禁忌

薬剤師からの声かけ:「帯状疱疹のワクチン(シングリックス)接種はされましたか?特に今の薬(JAK阻害薬)を使っている患者さんには重要です」


新型コロナウイルスワクチン

RAを含む免疫抑制状態の患者さんは、重症化リスクが高いカテゴリに入ります。

JAK阻害薬使用患者へのACR推奨(2021年): 「ワクチン接種後1週間はJAK阻害薬を休薬する(中等度の推奨)」


生ワクチン接種の注意点

生ワクチン(生きた弱毒化ウイルス・細菌を含む)は免疫抑制患者には原則禁忌です。

生ワクチンの例:

  • 麻疹・風疹(MR)ワクチン
  • 水痘ワクチン
  • 帯状疱疹ワクチン
  • BCGワクチン
  • 黄熱ワクチン

免疫抑制療法開始前に、接種が必要な生ワクチンを確認・接種しておくことが重要です。


妊娠中にTNF阻害薬を使用した母親の新生児へのワクチン

妊娠22週目以降にTNF阻害薬(セルトリズマブを除く)を使用した場合:

赤ちゃんは生後6ヶ月を過ぎるまで生ワクチンを受けてはいけない

理由:胎盤を通して母親のTNF阻害薬が赤ちゃんの体内に移行し、生後6ヶ月ごろまで薬が残っている可能性があるためです。

セルトリズマブペゴル(シムジア®)のみFc部分がないため胎盤通過がほとんどなく、この制限が適用されません。


手術時の休薬管理

RA患者さんが人工関節置換術などの手術を受ける場合、感染予防のためDMARDsの休薬が必要です。

ACR/AAHKS推奨(2017年)による休薬期間

薬剤投与間隔休薬期間
csDMARDs(MTXなど)種々継続(休薬不要)
インフリキシマブ6〜8週間7〜9週
エタネルセプト1〜2回/週2週
アダリムマブ2週間3週
トシリズマブ(静注)4週間5週
トシリズマブ(皮下注)1〜2週間2週
アバタセプト(静注)4週間5週
アバタセプト(皮下注)1週間2週
ゴリムマブ4週間5週
セルトリズマブ2〜4週間3〜5週
トファシチニブ1日2回(半減期3時間)1週
バリシチニブ1日1回(半減期14時間)記載なし

術後の再開:創治癒確認後、一般的には術後14日で再開。


薬剤師の役割:術前確認のチェックリスト

手術が決まったRA患者さんへの薬剤師の確認事項:

□ 使用中の生物学的製剤・JAK阻害薬の名称と投与スケジュール 

□ 休薬のタイミング(直前の投与日を確認) 

□ 術後の再開時期の確認 

□ MTXは継続でよいことの確認(主治医へ確認) 

□ ステロイドを使用している場合は手術時のステロイドカバー


まとめ

  • RA患者は免疫抑制状態→感染症リスクが高い→ワクチン接種が重要
  • 推奨ワクチン:インフルエンザ(毎年)・肺炎球菌・帯状疱疹(シングリックス)
  • JAK阻害薬使用患者:帯状疱疹ワクチン(シングリックス)を強く推奨
  • 生ワクチンは免疫抑制療法中には禁忌(ビケン®帯状疱疹ワクチンは禁忌)
  • 妊娠22週以降のTNF阻害薬使用→新生児は生後6ヶ月まで生ワクチン禁忌(セルトリズマブ除く)
  • 手術時のDMARDs休薬:生物学的製剤は2〜9週前から休薬。MTXは継続。術後14日で再開

次回はシリーズ最終回「薬剤師のRA服薬支援とTake Home Message」をお届けします。


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バイオシミラーの活用⑩ 

hospharブログ(病院薬剤師の専門情報)

2026年8月30日日曜日

バイオシミラー(BS)の活用:RA患者の医療費負担を考える【RAシリーズ⑩】

 生物学的製剤は非常に高額です。しかしバイオシミラー(BS)の普及により、患者さんの医療費負担を大きく軽減できる時代になりました。薬剤師として知っておくべきBSの知識を解説します。


生物学的製剤の薬価は高額

まず現実を直視しましょう。

主な生物学的製剤の薬価(2024年4月時点)

製品薬価
インフリキシマブ(レミケード®)100mg¥54,950
エタネルセプト(エンブレル®)50mg¥18,359
アダリムマブ(ヒュミラ®)40mg¥48,988
ゴリムマブ(シンポニー®)50mg¥106,324
トシリズマブ(アクテムラ®)400mg点滴¥54,665
アバタセプト(オレンシア®)250mg点滴¥54,444

3割負担でも患者さんの毎月の自己負担は数万円になることがあります。


バイオシミラー(BS)とは

バイオシミラー(Biosimilar)とは、先行バイオ医薬品(先発品)と「類似する」生物学的製剤です。

先行品との関係

  • 品質・安全性・有効性が先行品と同等であることが確認されたもの
  • 先行品の特許期間満了後に他メーカーが製造・販売

薬価:先行品の約40〜60%程度


主なRAのBSと薬価

先行品バイオシミラー薬価(先行比)
レミケード®インフリキシマブBS先行品の37.7%
エンブレル®エタネルセプトBS先行品の61.2%
ヒュミラ®アダリムマブBS先行品の46.2%

インフリキシマブのBSは先行品の約37.7%まで下がっています。

例)インフリキシマブ(66.7kg未満の患者・4週間):

  • 先行品:約¥32,970(3割負担)
  • BS:約¥12,436(3割負担)

1回あたり約2万円以上の差。年間では大きな節減になります。


バイオシミラーへの切り替えの考え方

BSへの切り替えは「先行品で安定している患者さんをBSに変更する」という場面が多くあります。

切り替え時の注意点

  • 患者さんへの十分な説明と同意(BSの同等性・先行品との違い)
  • 切り替え後の経過観察(有効性・安全性の確認)
  • 患者さんが不安を感じる場合は無理に切り替えない

切り替えのメリット

  • 患者さんの医療費負担の軽減
  • 病院・薬局の費用削減(医療経済への貢献)

JAK阻害薬との医療費比較

JAK阻害薬は内服薬のため、点滴の化学療法室料(約¥1,350)がかかりません。

4週間あたりの標準投与での3割自己負担(2024年4月)

薬剤4週間での3割負担
インフリキシマブ(先行品・66.7kgまで)¥32,970
インフリキシマブBS¥12,436
エタネルセプト(先行品)25mg×4本¥22,030
エタネルセプトBS 25mg×4本¥13,470
アダリムマブ(先行品)40mg×2本¥29,390
アダリムマブBS 40mg×2本¥13,580
トファシチニブ¥40,700
バリシチニブ¥40,350
ウパダシチニブ¥38,930

医療経済と薬剤師の役割

「有効性・安全性に加え、経済性も考え、患者さんと共有意思決定によって治療方針を決定する」——これがTake Home Messageにも含まれています。

薬剤師が医療経済に貢献できる場面:

① バイオシミラーの情報提供 「先行品と同等の効果・安全性が確認されているBS製剤があります。切り替えることで自己負担額が約半額になります」

② 高額療養費制度の案内 生物学的製剤を使用している患者さんには、高額療養費制度の活用を案内する。月の医療費が自己負担限度額を超えた分が払い戻される制度です。

③ 特定疾患医療費助成制度の確認 一部のRA患者さんが対象になる可能性がある場合、確認を促す。


まとめ

  • 生物学的製剤の薬価は非常に高額(月数万円の自己負担)
  • バイオシミラー(BS)は先行品の約40〜60%の薬価
  • 主なBS:インフリキシマブBS(37.7%)・エタネルセプトBS(61.2%)・アダリムマブBS(46.2%)
  • BS切り替え時は患者への十分な説明・切り替え後の経過観察が重要
  • 薬剤師はBSの情報提供・高額療養費制度の案内で医療経済に貢献できる

次回は「RA患者へのワクチン接種・手術時の休薬管理」を解説します。


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JAK阻害薬⑨ 

hospharブログ(病院薬剤師の専門情報)

2026年8月29日土曜日

JAK阻害薬:内服可能な分子標的薬の特徴と帯状疱疹リスク【RAシリーズ⑨】

 2013年に日本初のJAK阻害薬(トファシチニブ)が登場して以来、5剤が承認されています。生物学的製剤と並ぶ選択肢として重要なJAK阻害薬を解説します。


JAK阻害薬とは

JAK(Janus Kinase:ヤヌスキナーゼ)は、炎症性サイトカインが受容体に結合した際に活性化される細胞内シグナル分子です。

JAKが活性化されると→STAT(シグナル伝達兼転写活性化因子)がリン酸化→核内で遺伝子転写活性化→サイトカイン産生亢進・免疫細胞活性化

JAK阻害薬はこのシグナル伝達を細胞内で遮断します。

生物学的製剤との最大の違い:内服薬

生物学的製剤は皮下注射または点滴で投与しますが、JAK阻害薬は全て内服薬です。注射が苦手な患者さん・自己注射が難しい患者さんにとって大きなメリットです。


日本で承認されている5剤のJAK阻害薬

製品名一般名承認年標的JAK
ゼルヤンツ®トファシチニブ2013年JAK1/3(>2)
オルミエント®バリシチニブ2017年JAK1/2
スマイラフ®ペフィシチニブ2019年JAK3/1/TYK2(>2)
リンヴォック®ウパダシチニブ2020年JAK1(選択的)
ジセレカ®フィルゴチニブ2020年JAK1(選択的)

5剤の詳細比較

トファシチニブ(ゼルヤンツ®)

項目内容
投与方法5mg錠を1錠、1日2回(朝夕食後)
代謝主に肝代謝・30%腎排泄
相互作用CYP3A4阻害剤(グレープフルーツ・一部の薬剤)注意
特記65歳以上で一部制限あり
薬価¥2,260.9/5mg錠

バリシチニブ(オルミエント®)

項目内容
投与方法2mg錠を2錠(4mg)、1日1回(夕食後)
代謝主に肝代謝・70%腎排泄(腎機能低下で要注意)
相互作用プロベネシド(腎排泄阻害)注意
特記eGFR<30では禁忌。70歳以上・体重40kg以下なら1錠
薬価¥2,300/2mg錠

ペフィシチニブ(スマイラフ®)

項目内容
投与方法50mg錠を3錠(150mg)、1日1回(夕食後)
代謝主に肝代謝・〜37%腎排泄
薬価¥1,315.3/50mg錠

ウパダシチニブ(リンヴォック®)

項目内容
投与方法7.5mg錠を2錠(15mg)、1日1回(夕食後)
代謝一部肝代謝・24%腎排泄
特記体重40kg以下なら1錠。JAK1選択的でエビデンス豊富
薬価¥2,205.4/7.5mg錠

フィルゴチニブ(ジセレカ®)

項目内容
投与方法100mg錠を2錠(200mg)、1日1回(夕食後)
代謝主に腸管代謝・87%以上腎排泄
特記eGFR<60では100mg(1錠)に減量。eGFR<15では禁忌
薬価¥2,141.9/100mg錠

JAK阻害薬最大の注意点:帯状疱疹

JAK阻害薬は生物学的製剤と比べ、帯状疱疹の発生率が高いことが最大の注意点です。

薬剤帯状疱疹発生率(/患者100人年)
TNF阻害薬(生物学的製剤)2〜3
JAK阻害薬(全体)約4〜9(特に日本人・韓国人・台湾人が高い)
トファシチニブ(日本人・韓国人)9.2
バリシチニブ3.1〜4.4
ペフィシチニブ(アジア人)7.3
ウパダシチニブ(アジア人)11.1(15mg)
フィルゴチニブ1.1〜1.7

特にアジア人患者での帯状疱疹発生率が高い傾向があります。


帯状疱疹への対策

帯状疱疹ワクチンの接種推奨

JAK阻害薬開始前または開始後に帯状疱疹ワクチン(乾燥組換え帯状疱疹ワクチン:シングリックス®)の接種を推奨します。

シングリックス®の特徴:

  • 組換えタンパク質サブユニットワクチン(生ワクチンではない)
  • 50歳以上に使用可能
  • 帯状疱疹予防効果:高齢者でも90%以上
  • 2回接種(2ヶ月以上間隔を空けて)

生ワクチン(ビケン®)は免疫抑制患者には禁忌ですが、シングリックス®は免疫抑制患者にも使用できます。

薬剤師として服薬指導の際に「帯状疱疹ワクチン、接種されましたか?」と確認することが重要です。

帯状疱疹の早期症状

「皮膚のビリビリする痛み・小さい水疱の集まり」が帯状疱疹の初期症状です。

服薬指導での一言:「体の左右どちらかに帯状の皮疹や痛みが出たら、早めに受診してください」


JAK阻害薬のその他の注意点

悪性腫瘍リスク: 50歳以上を対象にした試験で、一部のJAK阻害薬ではTNF阻害薬より悪性腫瘍が多い可能性が指摘されています。悪性腫瘍の既往・家族歴がある患者さんでは慎重に検討。

血栓リスク: JAK阻害薬の添付文書に「深部静脈血栓症・肺塞栓症」のリスクが追記されています。

心血管イベント: 一部のJAK阻害薬でリスクが指摘されており、55歳以上かつ心血管リスクが高い患者さんでは慎重に。


JAK阻害薬とbDMARDの選択

ガイドライン(JCR 2024)では:

長期安全性・医療経済の観点からbDMARD(生物学的製剤)を優先する

「JAK阻害薬は悪性腫瘍・心血管イベント・血栓イベントのリスク因子を考慮する」

JAK阻害薬は内服薬という大きなメリットがある一方、上記のリスクを考慮した上で患者さんと一緒に選択することが重要です。


まとめ

  • JAK阻害薬は5剤。全て内服薬(注射不要)
  • 生物学的製剤と同等の有効性と関節破壊抑制効果
  • 最大の注意点:帯状疱疹リスクが高い(特にアジア人)
  • 帯状疱疹ワクチン(シングリックス®)の接種を強く推奨
  • 悪性腫瘍・血栓・心血管リスクも考慮が必要
  • ガイドラインでは長期安全性からbDMARDを優先

次回は「バイオシミラー(BS)の活用と医療費の考え方」を解説します。


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生物学的製剤②⑧ 

hospharブログ(病院薬剤師の専門情報)

2026年8月28日金曜日

生物学的製剤②IL-6阻害薬・T細胞共刺激阻害薬:トシリズマブ・アバタセプト【RAシリーズ⑧】

 TNF阻害薬が効かない患者さんにも有効な生物学的製剤が、IL-6阻害薬(トシリズマブなど)とT細胞共刺激阻害薬(アバタセプト)です。特にトシリズマブは日本生まれの世界的な薬です。


IL-6阻害薬

IL-6(インターロイキン-6)はRAの炎症において重要なサイトカインです。特に全身性の炎症症状(発熱・CRP上昇・疲労感・貧血)に深く関わります。

トシリズマブ(アクテムラ®):日本が誕生させた革命的な薬

2008年日本承認(国産:中外製薬が開発)

項目内容
標的IL-6受容体
投与法点滴(1時間)または皮下注(自己注射可)
点滴間隔4週間
皮下注間隔1週間
MTX併用不要(単独でも高い有効性)
点滴用量8mg/kg
皮下注用量162mg/0.9ml

トシリズマブの特徴

  • MTXを使えない患者(腎機能低下・高齢者・肺疾患合併など)にも有効
  • IL-6を阻害することで、CRP・発熱・貧血などの全身症状が改善する
  • TNF阻害薬が無効だった患者にも有効なケースが多い

注意点

  • IL-6を阻害するため、感染しても炎症反応(発熱・CRP上昇)が出にくくなる(マスクされる)
  • 「熱が出ないから大丈夫」と感染を見落とすリスクがある
  • 腸管穿孔・消化管穿孔のリスクあり(特にステロイドとの併用・腸管憩室のある患者)

サリルマブ(ケブザラ®)

2018年日本承認

項目内容
標的IL-6受容体(トシリズマブと同じ)
投与法皮下注・自己注射可
投与間隔2週間(必要に応じ1週間に短縮可)
用量200mg/1.14ml

オゾラリズマブ(ナノゾラ®)

2022年日本承認(最も新しいIL-6阻害薬)

ナノボディ技術を用いた新世代の抗IL-6受容体抗体。4週間に1回の皮下注射。


T細胞共刺激阻害薬:アバタセプト(オレンシア®)

2010年日本承認

作用機序:T細胞を活性化させない

RAの免疫異常は、T細胞が活性化されることから始まります。

T細胞が活性化されるためには「2つのシグナル」が必要:

  • シグナル1:T細胞受容体(TCR)と抗原提示細胞(APC)のMHCクラスII分子の結合
  • シグナル2(共刺激):CD28(T細胞)とCD80/86(APC)の結合

アバタセプトは**CTLA4-IgG(CTLA4の細胞外ドメインとIgGのFcの融合タンパク)**として、CD80/86に先回りして結合し、シグナル2をブロックします。

→ T細胞が活性化されない→炎症が起きない

項目内容
標的CD80/86(T細胞共刺激)
投与法点滴(30分)または皮下注(自己注射可)
点滴間隔隔週で3回→その後4週間
皮下注間隔1週間
MTX併用±(単独でも有効)
点滴用量500mg(60kg未満)・750mg(60〜100kg)
皮下注用量125mg/ml

アバタセプトの特徴

  • 作用機序がTNF阻害薬・IL-6阻害薬と全く異なるため、それらが無効だった患者に有効なことがある
  • 感染症リスクがTNF阻害薬より低いとされる(特に肺疾患合併RA患者で有利)
  • 間質性肺炎を合併しているRA患者さんに比較的使いやすい

ゴリムマブ(シンポニー®)・セルトリズマブペゴル(シムジア®)

これらもTNF阻害薬に分類されますが、後発承認(2011年・2012年)で特徴的な点を押さえておきましょう。

ゴリムマブ(シンポニー®)

  • 4週間に1回の皮下注射
  • 完全ヒト型抗TNF-α抗体

セルトリズマブペゴル(シムジア®)

  • Fc部分を持たない(唯一のPEG化Fab抗体)
  • 胎盤通過がほとんどない妊娠中でも使用可能な唯一のTNF阻害薬
  • 授乳中の母乳への移行も極めて少ない
  • 妊娠を希望するRA患者さんに重要な選択肢

生物学的製剤の有効性を決める因子

生物学的製剤が効くかどうかは以下の因子が影響します:

有効性を高める因子

  • 適切な標的分子の選択(患者の病態に合ったターゲット)
  • トラフ値(次回投与直前の血中濃度)が最低有効血中濃度を超えること
  • 投与量と投与間隔の適切な設定
  • MTX・ステロイドの適切な併用
  • Fc受容体との親和度

有効性を下げる因子

  • 抗バイオ抗体(抗薬物抗体)の形成
  • 製剤の組織移行性の低さ

まとめ

  • IL-6阻害薬(トシリズマブ・サリルマブ・オゾラリズマブ):CRP・発熱・貧血などの全身症状に有効。感染時に炎症反応がマスクされることに注意
  • トシリズマブは日本発の世界的な薬。MTX不要
  • アバタセプト:T細胞共刺激を阻害。肺疾患合併RAに有利
  • セルトリズマブ:唯一の妊娠中使用可能なTNF阻害薬
  • TNF阻害薬無効→非TNF阻害薬(IL-6・アバタセプト)への切り替えを優先

次回は「JAK阻害薬:内服可能な分子標的薬と帯状疱疹リスク」を解説します。


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生物学的製剤①TNF阻害薬⑦ 

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