2026年6月24日水曜日

SOAP形式とは?薬歴の基本構造を4つの要素で理解する【薬歴シリーズ③】

 こんばんは、田浦マインドです。

現在の薬局・病院薬剤師業務では「SOAP形式」での薬歴記載が主流となっています。しかし「なんとなくSOAPで書いているけど、各項目の意味が曖昧」という方も多いのではないでしょうか。今回はSOAPの基本構造をしっかり整理します。


SOAPとは

SOAPとは、患者情報を4つの要素に分けて記録する方法です。

  • S(Subjective):主観的情報
  • O(Objective):客観的情報
  • A(Assessment):評価
  • P(Plan):計画

これはPOS(Problem Oriented System:問題志向型システム)の考え方に基づいた記録形式です。


S/OとA/Pの構造的な違い

SOAPを理解する上で最も重要なのは、S/OとA/Pの「立場の違い」です。

S・O → 患者側の情報

患者さんや家族から聞いた言葉(S)と、薬剤師が客観的に確認できた情報(O)です。

A・P → 医療者側の情報

S・Oを見て薬剤師がどのように考えたか(A)と、その判断に基づいて何を指導・計画したか(P)です。

「S/Oを見てどう考えたかがA、その判断のもとで何をしたかがP」——この流れを理解すると、SOAP全体の論理的なつながりが見えてきます。


各要素の詳細

S(Subjective:主観的情報)

患者さんや家族からの訴え・主訴です。患者の言葉をできるだけそのまま記録します。

記載する内容:

  • 体調・症状に関する訴え
  • 薬の効果実感
  • 副作用と思われる症状
  • 服薬状況(飲み忘れなど)
  • 生活習慣の変化
  • 市販薬・健康食品の使用状況
  • 患者さんの不安や疑問

記載例:「朝の薬をよく飲み忘れる」「最近、眠気が強い」

ポイント:患者の言葉をそのままの形で記録する。薬剤師の解釈を混ぜない。


O(Objective:客観的情報)

薬剤師が客観的に確認できる情報です。

記載する内容:

  • 処方内容とその変更点(増量・減量・追加・中止など)
  • 検査値(血液検査、HbA1c、PT-INRなど)
  • バイタルサイン(血圧、脈拍など)
  • 残薬数
  • 薬剤師が観察した所見(浮腫の有無、表情、歩行状態など)

記載例:「残薬7日分あり。血圧130/78mmHg、脈拍72/min。」

ポイント:数値や事実を正確に。前回値との比較も有用。


A(Assessment:評価)

S・Oを踏まえた薬剤師の薬学的評価です。問題点の抽出・分析を行います。新人薬剤師が最も難しいと感じる項目です。

評価の視点:

  • 有効性の評価(治療目標に対する効果、症状改善の有無)
  • 安全性の評価(副作用症状の有無と程度、薬物相互作用のリスク)
  • アドヒアランスの評価(服薬状況、理解度)

記載例:「飲み忘れによりアドヒアランス低下。眠気は処方薬(アレロック)の副作用の可能性あり。」

ポイント:S・Oをもとに薬剤師が判断した内容を書く。断定せず「可能性あり」と表現。


P(Plan:計画)

Aに基づき実行した服薬指導・次回の対応方針です。

記載する内容:

  • 今回実施した服薬指導の内容
  • 処方提案(医師へのフィードバック)
  • 次回来局時の確認事項
  • モニタリング計画

記載例:「服薬時間を決めるよう助言。眠気について医師に情報提供。次回、飲み忘れ状況を再確認。」

ポイント:「指導した」で終わらず「何を指導し、次回何を確認するか」を明記。


記載例で全体像を確認

以下は典型的なSOAP薬歴の例です。

S:「朝の薬をよく飲み忘れる」「最近、眠気が強い」
O:残薬7日分あり。血圧130/78mmHg、脈拍72/min。
A:飲み忘れによりアドヒアランス低下。
  眠気は処方薬(アレロック)の副作用の可能性あり。
P:服薬時間を決めるよう助言。眠気について医師に情報提供予定。
  次回、飲み忘れ状況を再確認。

SOAPのメリット

SOAP形式で書く利点は4つあります。

  1. 情報の整理がしやすい:患者情報と薬剤師の判断が明確に分かれる
  2. 臨床思考プロセスが明確になる:なぜそう判断したかが記録に残る
  3. 他の薬剤師が見ても理解しやすい:引き継ぎがスムーズ
  4. 問題点と対応策が明確になる:次回の指導に活かしやすい

書き方の4つのポイント

  1. 事実と評価を分ける:患者の発言や検査値は「S・O」、薬剤師の解釈は「A」に明確に分ける
  2. 再現性のある記録:他の薬剤師が読んでも患者の状況が理解できるよう、具体的に
  3. 次回に活かせる内容を書く:「何を確認し、何を指導し、次回どうするか」を残す
  4. 簡潔に:長すぎると活用されにくい

まとめ

  • SOAP = S(主観)・O(客観)・A(評価)・P(計画)の4要素
  • S/Oは患者側の情報、A/Pは医療者側の情報
  • S・Oを見てどう考えたかがA、その判断のもとで何をするかがP
  • 事実と評価を混ぜない、次回につながる記録を残す

次回はS(主観的情報)の具体的な書き方を詳しく解説します。


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薬歴の記載事項② 

薬歴とは何か① 

薬剤師の話ブログ(専門情報)

2026年6月23日火曜日

薬歴の記載事項:法律で定められた必須11項目を解説【薬歴シリーズ②】

 こんばんは、田浦マインドです。

「薬歴に何を書けばいいか分からない」——薬学生や若手薬剤師からよく聞く悩みです。実は厚生労働省のガイドラインに、必ず記載すべき11項目が明示されています。今回はその全容を解説します。


厚生労働省が定める薬歴の記載事項

薬剤服用歴の記録(薬歴)への記載事項は、厚生労働省によって以下の11項目が定められています。

ア:患者の基礎情報 氏名・生年月日・性別・被保険者証の記号番号・住所・必要に応じて緊急連絡先

イ:処方および調剤内容 処方した保険医療機関名・処方医氏名・処方日・処方内容・調剤日・処方内容に関する照会の内容など

ウ:患者の体質 アレルギー歴・副作用歴を含む体質、薬学的管理に必要な患者の生活像、後発医薬品の使用に関する患者の意向

エ:疾患に関する情報 既往歴・合併症・他科受診において加療中の疾患に関するものを含む

オ:併用薬の状況 要指導医薬品・一般用医薬品・医薬部外品・健康食品を含む。服用薬と相互作用が認められる飲食物の摂取状況も含む

カ:服薬状況 残薬の状況を含む

キ:患者の服薬中の体調の変化 副作用が疑われる症状など。患者またはその家族等からの相談事項の要点

ク:服薬指導の要点

ケ:手帳活用の有無 手帳を活用しなかった場合はその理由と患者への指導の有無

コ:今後の継続的な薬学的管理および指導の留意点

サ:指導した保険薬剤師の氏名


各項目のポイント

ア・イ:基礎情報と処方内容

基礎情報は初回来局時に収集します。保険情報は算定のためにも必要です。処方内容は「前回からの変更点」を意識して記録することが重要です。

ウ:体質情報(アレルギー歴・副作用歴)

これは最も重要な安全管理情報のひとつです。「前回アレルギーがあると言っていたのに、記録がない」では大変危険です。初回来局時に必ず聴取し、その後も継続確認します。

エ・オ:疾患と併用薬

他科受診の有無・一般用医薬品・健康食品まで確認することで、相互作用や重複投薬を防げます。「病院の薬だけ確認すれば十分」ではありません。

カ:服薬状況(残薬含む)

残薬の確認は重要です。「飲み忘れが週2回ある」という情報は、単なる「飲めていない」より具体的で次の指導につながります。

キ:体調変化と相談事項

患者さんが感じている副作用のような症状を記録します。「なんとなく体がだるい」「最近めまいがする」——こうした訴えを記録しておくことで、後から薬との因果関係を検討できます。

ク:服薬指導の要点

「服薬指導実施」だけでは不十分です。何を確認し、何を指導したのかを具体的に記載してください。「副作用について説明した」ではなく「アムロジピンの副作用として足のむくみが出ることを説明した」と書く方が良い記録です。

コ:次回の留意点

「次回来局時に残薬確認」「次回はHbA1cの結果を確認」など、次につなげる情報を必ず残すことが継続的な薬学的管理の基本です。


疾病に関する一般的な生活指導は「薬学的管理」ではない

ひとつ重要な注意点があります。

「水分をたくさん摂ってください」「運動しましょう」などの一般的な生活指導は、薬学的管理とはいえません。

薬歴に記載する内容は、薬と直接関連した薬学的視点からの指導であることが求められます。


薬歴は処方箋受付のたびに更新する

薬剤服用歴の記録は、処方箋を受け付けるたびに患者情報を確認し、新たに収集した情報を踏まえた上で、その都度過去の薬歴を参照して記録します。

また、同一患者についての全ての記録が、必要に応じて直ちに参照できるよう患者ごとに保存・管理することが義務づけられています。


まとめ

薬歴の必須記載事項11項目:

  • ア:患者の基礎情報
  • イ:処方・調剤内容
  • ウ:体質(アレルギー歴・副作用歴)・生活像
  • エ:疾患情報(既往歴・合併症)
  • オ:併用薬・相互作用のある飲食物
  • カ:服薬状況(残薬含む)
  • キ:体調変化・相談事項
  • ク:服薬指導の要点
  • ケ:手帳活用の有無
  • コ:今後の管理・指導の留意点
  • サ:指導した薬剤師の氏名

これらを意識して記録することで、継続的で質の高い薬学的ケアが提供できます。

次回はいよいよ「SOAP形式」の基本構造について解説します。


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薬歴とは何か?① 

薬剤師の話ブログ(専門情報)

2026年6月22日月曜日

薬歴とは何か?目的と6つの役割を病院薬剤師が解説【薬歴シリーズ①】

 こんばんは、田浦マインドです。

「薬歴って、ただの記録作業でしょ?」——そう思っているとしたら、少し待ってください。

薬歴は、薬剤師の臨床判断の証であり、患者さんの薬物治療の歴史であり、チーム医療の情報共有ツールです。今回から「薬歴シリーズ」として、薬歴の基礎から実践的な書き方まで丁寧に解説していきます。


薬歴とは?

薬歴(薬剤服用歴管理指導記録)とは、患者さんの薬物治療の歴史をまとめた医療記録です。

薬剤師法・薬機法に基づき、薬剤師には薬歴の記載が義務づけられています。しかし単なる法的義務を超えて、薬歴は「患者さんとの会話のきっかけ」「次回来局時の情報ベース」「チーム医療の共有ツール」として大きな意味を持ちます。

「詳しく書けば良い薬歴」ではありません。

「できる限り簡潔で、かつその患者さんのことがよくわかる薬歴」——これが良い薬歴の定義です。


薬歴の6つの目的

薬歴を書く目的は、大きく6つあります。

① 良い医療(ファーマシューティカルケア)をすすめるため

過去の服薬歴・副作用歴・アレルギー歴を把握することで、より安全で適切な薬学的管理ができます。「前回こう言っていたから、今回はここを確認しよう」という継続的なケアが可能になります。

② 薬学的管理及び指導の証拠として

薬剤師が行った服薬指導の内容を証明する記録です。医療過誤が問題になった際にも、適切な指導を行ったことの証拠になります。

③ 調剤報酬請求の根拠として

薬学管理料などの調剤報酬を算定するためには、適切な薬歴の記載が必要です。記載が不十分だと、算定対象外となる可能性があります。

④ スタッフ間の情報共有ツールとして

同一患者を複数の薬剤師が担当する場合、前回の指導内容や患者の状態を引き継ぐ重要な情報源になります。

⑤ スタッフ教育の資料として

良い薬歴・悪い薬歴を比較することで、後輩薬剤師の教育に活用できます。

⑥ 薬学的臨床研究の資料として

薬歴の蓄積は、薬学的な研究や症例報告の基礎データになります。


薬歴の3つの役割

もう少し体系的に整理すると、薬歴には3つの役割があります。

法的記録としての役割 薬剤師法第25条の2に基づく法的義務。調剤報酬算定の根拠資料。医療過誤発生時の証拠資料。

医療情報共有ツールとしての役割 薬剤師間の情報共有。多職種連携における情報提供。患者さんへの説明資料。

薬学的ケアの記録としての役割 薬学的評価と問題点の記録。服薬指導内容の記録。薬物治療の効果と副作用のモニタリング。


「良い記録」とはどういうものか

薬歴を書く上でよく誤解されるのが「たくさん書けば良い記録」という考え方です。

薬歴は「医療従事者が診療経過などを記録し、他職種と情報共有するためのツール」です。したがって良い記録とは——

「読む人(薬剤師間や他職種)に伝わる記録」

これに尽きます。

加えて、記録は多く書いても見てもらえません。簡潔さも重要です。

「良い記録 ≒ 簡潔で伝わる記録」と覚えておきましょう。


医療記録としての4原則

薬歴は医療記録である以上、以下の4原則を守る必要があります。

① やったことは書く ② やっていないことは書かない ③ 改ざんしない ④ 誰が読んでもわかる記録にする

「誰が読んでも」というのは、薬剤師仲間だけでなく、医師・看護師、そして患者さんやその家族までを含みます。略語の使用は最小限にしましょう。

また、実際に行った行為だけでなく、**「判断と判断根拠」**をきちんと記録することが重要です。


時間と内容のバランスが大事

質の高い詳細な記録も大事ですが、時間をかけすぎるのも良くありません。

薬剤管理指導1件あたりの目安として、情報収集7分・患者面談6分・指導記録の記載7分、合計約20分が一つの基準とされています。

記録に時間をかけすぎると、患者さんとの面談時間が削られてしまいます。効率よく記録する工夫も大切なスキルです。


まとめ

  • 薬歴とは患者さんの薬物治療の歴史であり、薬剤師の臨床判断の証
  • 目的は①良い医療の推進 ②指導の証拠 ③調剤報酬根拠 ④情報共有 ⑤教育 ⑥研究
  • 良い薬歴 = 簡潔で伝わる記録
  • やったことは書く、やっていないことは書かない、改ざんしない、誰が読んでもわかる

次回は薬歴の記載事項——法律で定められた必須11項目について解説します。


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病院薬剤師の1日スケジュール 

薬剤師の話ブログ(専門情報)

2026年6月21日日曜日

処方箋がなくても薬を出せる?災害時の法的根拠を薬剤師が解説【災害医療シリーズ⑩・完結】

こんばんは、田浦マインドです。

災害医療シリーズ最終回は、薬剤師なら必ず知っておくべき重要な知識——「処方箋なし調剤の法的根拠」です。

「処方箋がないと薬が出せない」は、災害時には当てはまりません。でも、なぜ出せるのか、どんな条件で出せるのかを正確に理解していないと、躊躇して患者さんの命を危険にさらしてしまいます。


平時のルール:処方箋なし調剤は原則禁止

薬機法第49条第1項(旧薬事法)では、「処方箋医薬品は、処方箋の交付を受けた者以外に、正当な理由なく販売してはならない」とされています。

処方箋が義務化されている理由は、誤用・乱用の防止、医師の診断との連動、保険制度の担保、副作用管理など——患者を守るための重要なルールです。


「正当な理由」が大規模災害時には認められる

ここが重要です。

薬機法第49条には「正当な理由なく」という文言があります。

厚生労働省通知(H17薬食発0330016号)によって、「正当な理由」の具体例として**「大規模災害時等において、医師等の受診が困難な場合、または処方箋の交付が困難な場合」**が明示されています。

この通知を根拠に、東日本大震災(2011年)・熊本地震(2016年)・能登半島地震(2024年)のいずれでも、被災地への事務連絡として処方箋なし調剤が認められてきました。


3つの対応パターン

実際の災害現場では、状況に応じて3つのパターンで対応できます。

パターンA:処方箋あり(災害処方箋)

救護所の医師が「災害処方箋」を手書き・印刷で発行できる場合。

薬局・救護所で調剤し、患者負担はゼロ。費用は市町村に請求します。

パターンB:医師と電話確認できる場合

かかりつけ医と電話で処方内容を確認し、記録に残して対応します。熊本地震の通知(H28)で「事後に処方箋を発行してもらうことを条件に保険調剤も可」と明確化されました。

パターンC:医師と連絡がとれない場合

お薬手帳・薬の包装・薬歴から処方内容を確認し、慢性疾患で処方内容が明らかな場合に限り調剤できます。薬事トリアージが重要です!薬機法49条「正当な理由」を根拠とし、後日必ず主治医に連絡します。


記録は絶対に残す

どのパターンでも、記録は必ず残してください。

記録がなければ「無断で処方箋医薬品を販売した」と区別できなくなります。

調剤録に必ず記載すべき7項目:

  1. 患者氏名・生年月日
  2. 薬剤名・規格・数量
  3. 調剤年月日・時刻
  4. 根拠(口頭指示/処方歴/特例通知のいずれか)
  5. 処方医の氏名・所属
  6. 後日処方箋の発行を依頼予定の旨
  7. お薬手帳等の情報収集に使用した資料の有無

平時と災害処方箋の違い

比較項目保険処方箋(平時)災害処方箋(災害時)
法的根拠健康保険法災害救助法+薬機法49条
発行者保険医救護班の医師
発行場所保険医療機関救護所・避難所・被災現場等
様式定められた様式手書き可(保険者番号不要)
患者負担あり(1〜3割)ゼロ
費用請求先保険者都道府県・市町村

「患者負担ゼロ」——これは患者さんへの説明で重要なポイントです。「お金はかかりません」とはっきり伝えることで、受診・相談のハードルを大きく下げられます。


患者さんからよくある質問と答え方

「処方箋がないのに薬をもらっていいの?」

→「薬機法の『正当な理由』に当たるため、法律の範囲内での対応です。厚生労働省の通知に基づいています。ご安心ください」

「お金はかかりますか?」

→「災害救助法が適用されている期間中は、窓口負担はゼロです。保険証がなくても受け取れます」

「お薬手帳を持っていないのですが…」

→「大丈夫です。薬の名前・色・形・何のために飲んでいるかを教えていただければ確認できます。スマホに写真があれば見せてください」


麻薬・向精神薬にも特例がある

能登半島地震(R6)の通知では、麻薬・向精神薬の特例も含まれました。

麻薬施用者である医師へ連絡し、「施用の指示が確認できた場合」は必要な医療用麻薬を交付できます。ただし記録は通常の調剤録と同等以上に詳細に残すこと。


「法律があるから安心して動ける」

最後に、私がこの知識を学んで最も強く感じたことをお伝えします。

法律の根拠を知っていると、躊躇なく患者を助けられる。

「処方箋がないから薬を出せない」と思い込んでいると、目の前で苦しんでいる患者さんを助けられない場面が生まれます。

「これは法律の範囲内だ」「厚生労働省の通知があるから大丈夫だ」——その確信が、行動する勇気になります。


災害医療シリーズ 全10記事まとめ

① 災害医療とは何か?救急医療との決定的な違い ② DMAT・JMAT・TMAT・日薬…各チームを全部解説 ③ 熊本地震にTMATで参加した話 ④ 避難所で薬剤師がやること【環境整備・DVT予防・ゾーニング】 ⑤ 避難所で「糖尿病の薬どうする?」問題 ⑥ 「この薬、全部同じ?違う?」薬の混在問題 ⑦ CSCATTTとは?災害対応7原則を薬剤師が解説 ⑧ 「薬事トリアージ」赤・黄・緑で命を守る判断 ⑨ 能登半島地震に行ってきた【市立輪島病院での7日間】 ⑩ 処方箋がなくても薬を出せる?災害時の法的根拠(本記事)

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


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能登半島地震に行ってきた⑨ 

離島医療シリーズ 

薬剤師の話ブログ(専門情報)

2026年6月20日土曜日

能登半島地震の支援に行ってきた——市立輪島病院での7日間【災害医療シリーズ⑨】

 こんばんは、田浦マインドです。

2024年1月1日16時10分、石川県能登半島でM7.6の地震が発生しました。輪島市と志賀町で最大震度7を観測。観測史上7回目の震度7でした。

私は日本病院薬剤師会(日病薬)の「災害登録派遣薬剤師」として、1月16日〜22日の7日間、被災地の市立輪島病院薬剤部で医療支援活動を行いました。


参加の経緯

日病薬の災害医療支援本部は、石川県病院薬剤師会と連携しながらニーズを調査。地域中核病院(災害拠点病院)薬剤部の診療機能維持・サポートを目的として、以下の3病院への支援を決定しました。

  • 珠洲市総合病院
  • 公立宇出津総合病院
  • 市立輪島病院(←私が派遣)

スケジュール

1月16日(火)14:00 石川県庁に現地集合。オリエンテーションと支援活動の引き継ぎを受ける。

1月17日(水) 市立輪島病院へ移動し、支援活動開始。

1月22日(月)12:30 支援活動終了・撤退。


被災地への道中

「自己完結型派遣」が原則のため、1週間分の食料・水・寝袋を個人で用意し、レンタカーを借りて単独で現地へ向かいました(移動時間:約4〜6時間)。

道路状況が不明なため、原則として日中のみ移動。

実際の道路は——ところどころひび割れや段差があり、スピードが出せません。一方通行区間もあり、大渋滞でした。カーナビの地図が現状と乖離していて、地図を片手に運転する場面も。前に車がいないと本当に不安でした。

ちなみに私見ですが、運転は2人以上が望ましいと強く感じました。1人での長距離・悪路運転は疲労リスクが高く、支援者が被災者にならないためにも改善が必要だと思います。


市立輪島病院について

  • 所在:石川県輪島市
  • 開院:1945年(旧建物)、現建物:1997年
  • 災害拠点病院・DMAT指定病院
  • 病床数:175床
  • 薬剤師数:6名(+日病薬より2名派遣)

薬剤部の被災状況

着いて最初に目にしたのは、薬剤部の被災状況でした。

棚が倒れ、医薬品が散乱。冷蔵庫が壊れていました(停電後、非常用コンセントは使えたものの冷蔵庫自体が壊れたため、冷蔵保管が必要な薬剤が破損となりました)。

まず棚と書籍を整理・移動するところから始まりました。


私が行った主な活動内容

  • 薬局の書籍・棚の移動
  • 薬品請求業務
  • 内服・注射調剤の監査
  • エレベーター停止時は点滴を病棟へお届け
  • 抗がん剤の混注(安全キャビネットが使用不可の状況で)
  • 外来患者の診療支援・薬剤情報提供書の取得
  • 処方支援業務
  • 持参薬の鑑別・継続処方の配薬カードセット
  • ERへの夜間ストック薬の補充・配置
  • 一般外来再開のための薬剤準備
  • 薬学部実習生への講義

1日の業務時間は7:45〜19:00。「自分がいることで現地スタッフの負担が減る」という実感が力になりました。


エレベーターが止まる

強い余震(震度4以上)のたびにエレベーターが自動停止し、技術者が金沢から来るまで復旧できません。日中でも4〜6時間、夕方近くなら翌日まで止まることも。

4階への点滴は、スタッフで手分けして階段で運びました。患者の入退院も階段搬送です。

現地で強く感じたのは——「エレベーターが止まっている状況での防災シミュレーション」の重要性です。多くの病院の防災訓練では「非常用電源を使いエレベーターで搬送」を想定していますが、実際には「エレベーターが止まる」ことの方がリアルです。


断水の過酷さ

上水道は少し出る状態(チョロチョロ)でしたが、下水道は完全に使えませんでした。

洗った手の水も流せない。歯磨き後もうがいした水を流せない。トイレも制限。お風呂にも入れない。

そして最も医療に影響したのは——透析・カテーテル処置・手術ができなかったことです。積極的治療が必要な患者は毎日10〜15人、翌朝に金沢市内の病院へ転院搬送されていました。


「昨日まで飲んでいた薬が欲しい」

外来での処方支援業務では、お薬手帳を持たずに「昨日まで飲んでいた薬が欲しい」と来院する患者さんが多くいました。

かかりつけ医に問い合わせしたり、オンライン資格確認システムを利用してレセプトデータから処方歴を確認したり——マイナンバーカードを用いた本人確認で薬の処方歴が確認できるこのオンライン資格確認システムが、今回の支援で非常に有用だと感じました。

処方内容の重複(常用薬処方・災害処方・DMAT処方)の整理も薬剤師の仕事でした。


撤退のタイミングの難しさ

業務的には「そろそろ支援は必要なさそう」と感じるようになった時、それをどう判断し、本部の調整班にどう伝えるか——これが難しかった。

現地の医療機関のスタッフも被災者として避難所から出勤し、現場を支えています。「撤退します」と言いにくい空気があります。

平時から「撤退の判断基準」を明確にしておく必要があると感じました。


災害医療支援に必要な3つのこと

最後に、今回の経験で確信した「災害医療支援に必要なもの」をお伝えします。

① 倫理観:モラルを持ち、患者のプライバシーを守る。

② 積極性:待っていては仕事はこない。「何かできることはありますか?」と自分から動く。

③ 情熱:患者さんを助けたい——という気持ち。医療従事者を目指した時の心を思い返せるかどうか。


まとめ

  • 能登半島地震:M7.6・最大震度7・2024年元旦発災
  • 市立輪島病院薬剤部で7日間の業務支援を実施
  • 断水・エレベーター停止・余震続く環境で診療を継続
  • オンライン資格確認システムが処方支援で有効だった
  • 現地スタッフも被災者であることを忘れてはいけない
  • 必要なのは「倫理観・積極性・情熱」

次回は、「処方箋がなくても薬を出せる?」——災害時の法的根拠について解説します。


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薬事トリアージ 赤・黄・緑⑧ 

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