2026年6月18日木曜日

CSCATTTとは?災害対応7原則を薬剤師が解説【災害医療シリーズ⑦】

 こんばんは、田浦マインドです。

「CSCATTT(シーエスキャットティースリー)」——災害医療に関わる医療従事者なら必ず知っておくべき、国際標準の行動フレームワークです。

今回はこのCSCATTTと、薬局薬剤師向けに拡張した「CSCATPPP」をわかりやすく解説します。


CSCATTTとは

大規模災害時に医療チームが「何を・どの順番で・どのように」行動するかを示した国際標準フレームワークです。英国DMATが開発し、日本DMATも採用しています。

頭文字7文字にはそれぞれ意味があります。


C — Command & Control(指揮・統制)

最初に指揮系統を確立する。

誰が指揮官かを明確にし、情報を一元管理します。指揮系統が混乱すると、どんなに優秀なチームも動けません。

薬局での実践例:

  • 管理薬剤師が「災害時指揮官」として初動を指揮
  • スタッフの安否確認と役割分担を即座に決定
  • 患者対応・在庫管理・外部連絡の担当を明確化
  • 記録担当を置き、すべての判断・連絡を記録する

S — Safety(安全確保)

安全確保の優先順位は「自己 → 現場 → 傷病者」。

自分が倒れれば誰も助けられません。二次災害を防ぐことが最優先です。

薬局特有の安全ポイントとして、冷蔵医薬品(インスリン等)の温度管理、毒薬・劇薬の散乱防止、医療廃棄物の適切な処理なども含まれます。


C — Communication(情報伝達)

「正しい情報を・正しい相手に・正しいタイミングで」届けることが命を救う。

情報伝達の失敗が最も多くの死に関わります。

災害時は電話が繋がりにくい。FAX・SNS・無線など、代替手段を平時から準備しておくことが大切です。

報告フォーマットとして「SBAR」が有効です。

  • S(Situation):状況「インスリン患者が3日間注射できていません」
  • B(Background):背景「2型糖尿病で発症10年、グラルギン10単位/就寝前」
  • A(Assessment):評価「ケトアシドーシスの前兆と判断。血糖測定器もなし」
  • R(Recommendation):提案「インスリンと血糖測定器の確保を要請します」

A — Assessment(評価・状況把握)

「今何が起きているか」を迅速に把握し、必要資源を見積もる。

情報のない状態でいくら行動しても、的外れな対応になります。

薬局での発災後30分以内チェックリスト:

  • □ 建物・設備の被害状況
  • □ スタッフ全員の安否
  • □ 冷蔵庫・医薬品の状態
  • □ 来局患者・問い合わせ数
  • □ 電話・電力・水道の状態

T — Triage(トリアージ)

傷病者を重症度で分類し、対応優先度を決定する。

「全員を平等に救おうとすると、全員を救えなくなる」——これがトリアージの哲学です。

  • 赤(Ⅰ):最優先。生命危機があるが処置すれば救命可能
  • 黄(Ⅱ):待機的。数時間は待てる
  • 緑(Ⅲ):軽症。しばらく待てる
  • 黒(Ⅳ):死亡・救命不可

T — Treatment(治療・対応)

トリアージ区分に応じた処置を行う。

重要なのは「継続的な再評価」です。最初に緑だった患者が後から赤になることも、その逆もあります。状態は常に変化します。


T — Transport(搬送)

適切な医療機関へ搬送する。

薬剤師にとっての搬送支援とは、「適切な情報を添えて患者を繋ぐ」こと。薬剤情報なき搬送は受入病院に余計な負担をかけます。


CSCATPPP — 薬剤師版への拡張

CSCATTTの最後の3T(Triage・Treatment・Transport)を、薬局薬剤師の視点で読み替えたものがCSCATPPPです。

元の原則薬剤師版内容
T(Triage)P(Pharmaceutical Triage)薬事トリアージ:薬剤継続の緊急度を赤・黄・緑で判断
T(Treatment)P(Pharmaceutical Care)薬剤師ケア:服薬情報収集・一包化・副作用モニタリング
T(Transport)P(Patient Transport Support)患者搬送支援:重症化患者を医師・救急に確実につなぐ

CSCA(組織・準備フェーズ)は同じ、TTT(現場活動フェーズ)を薬剤師版に読み替えた——このフレームワークが頭に入っていれば、どんな災害現場でも「次に何をすべきか」が見えてきます。


まとめ

CSCATTTの7原則:

  1. C:まず指揮系統を確立する
  2. S:自己保護を最優先に
  3. C:SBARフォーマットで正確に伝える
  4. A:「今何が起きているか」をまず評価する
  5. T:トリアージで優先度を決める
  6. T:区分に応じた対応と継続的な再評価
  7. T:適切な場所へ・情報とともに搬送

「知っている」と「できる」は違います。ぜひ研修や訓練を通じて実践的に身につけてください。

次回は、薬剤師版トリアージである「薬事トリアージ」について詳しく解説します。


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「この薬、全部同じ?」薬の混在問題⑥ 

薬剤師の話ブログ(専門情報)

2026年6月17日水曜日

「この薬、全部同じ?違う?」災害現場での薬の混在問題【災害医療シリーズ⑥】

 こんばんは、田浦マインドです。

今回は、熊本地震の仮設診療所で実際に起きた「薬の混在問題」についてお伝えします。

一見マニアックな話に聞こえるかもしれませんが、これが調剤間違いの大きなリスク要因になりました。薬剤師だからこそ気づける、現場のリアルな課題です。


複数の病院から薬が集まってくる

仮設診療所には、複数の病院・支援チームがそれぞれ持参した医薬品が集まります。

ここで問題が起きました。

同じような薬なのに、名前が違う。同じ名前なのに、色が違う。同じ成分なのに、パッケージが違う。

具体的にどんな問題が起きたか、実例をご紹介します。


実際に起きた混在の例

① 同効能薬(効き目は同じだが成分が違う)

セルベックスカプセルとムコスタ錠——どちらも胃粘膜保護薬ですが、成分は異なります。効能は近くても、同じ薬ではありません。どっちかで良いですよね・・・(笑)

② 同一成分の先発品と後発品

デパス錠とエチゾラム錠——同じ成分(エチゾラム)ですが、前者は先発品、後者はジェネリック医薬品です。慣れていないスタッフには同じ薬とわかりにくい。

③ ジェネリックのメーカー違い

ロキソプロフェン錠「日医工」とロキソプロフェン錠「メディサ新薬」——成分・用量は全く同じですが、製薬メーカーが違います。見た目が微妙に異なり、「これ同じ薬?」と混乱が生じました。

④ 包装変更前後の製品の混在

ブチブロン錠とブチルスコポラミン錠——同一メーカーの同一成分薬ですが、包装・製品名が変更前後で混在していました。


同じワセリンでも色が違う!

さらに驚いたのは軟膏です。

ワセリンとプロペト——どちらも成分は「白色ワセリン」で同じです。しかし製薬メーカーが違うため、軟膏の色が異なっていました。

「これ、同じ薬ですか?」と看護師から確認が来た時、薬剤師として即座に「同成分です、大丈夫です」と答えられる——これが薬剤師の仕事です。


薬袋・薬情なしでの手書き識別

もうひとつ深刻な問題が起きました。

カロナール錠200mgと酸化マグネシウム錠330mgの外観包装が酷似していて、見分けがつかない——という状況です。

薬袋も薬剤情報提供文書(薬情)も印刷できない環境だったため、間違わないよう手書きで薬剤情報を記載し、薬にセロテープで貼り付けて提供しました。

アナログですが、これが患者さんの安全を守るための現実的な対応でした。


吸入薬がうまく吸えない患者さんへの工夫

もうひとつ印象に残っている工夫があります。

避難所には吸入薬(喘息・COPDなど)を使用している患者さんがいました。しかし普段と違う環境・ストレス・疲労の中で、うまく吸入できない方が増えていました。

そこで——紙コップを使って、簡易吸入補助器具(スペーサー)を現地で手作りしました。

市販のスペーサーがない環境でも、工夫次第で代替品が作れます。「できないと言わない」「何とかする」——この発想が、現場での薬剤師に求められる姿勢だと感じました。


SNSを活用した薬の在庫管理

今回の活動で活用できたのが、当日使用した薬剤リストと補充請求リストをSNSで拠点本部に送信するという方法です。

大規模災害時に公衆無線LAN「00000JAPAN」が無料開放されたため、避難所でもSNSを使用した情報共有が可能となりました。

翌日の人員・物資補充と一緒に、必要な薬を福岡の本部から届けてもらう——このサイクルで在庫管理を行いました。

夜23時頃に薬剤リストを送信し、翌日の昼に届く。この「24時間サイクル」が確立されてからは、薬の欠品不安が大幅に減りました。


今後の課題

この活動を通じてわかった最大の課題は——平時からの準備の必要性です。

複数チームが持参する医薬品リストを整備し、一元的な薬剤管理体制を構築しておくこと。混在しやすい薬の組み合わせをあらかじめ把握しておくこと。

「発災後の混乱した現場でゼロから考える」のでなく、「平時に十分に検討し整備しておくこと」が、災害時の薬剤師の活動を大きく左右します。


まとめ

  • 複数施設からの薬が集まると、同効薬・先後発混在・メーカー違いが発生する
  • 見た目が似ていても成分が違う薬があり、調剤間違いのリスクがある
  • 薬袋・薬情なしの環境では手書き対応で患者の安全を守る
  • 吸入補助器具を手作りするなど、ないものは工夫する
  • SNSを活用した在庫管理が有効
  • 平時からの薬剤リスト整備が最重要課題

次回は、災害対応の国際標準フレームワーク「CSCATTT」と、薬剤師版の「CSCATPPP」について解説します。


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避難所で糖尿病の薬どうする?⑤ 

薬剤師の話ブログ(専門情報)

2026年6月16日火曜日

避難所で「糖尿病の薬どうする?」問題【薬剤師が経験した低血糖対応】【災害医療シリーズ⑤】

 こんばんは、田浦マインドです。

熊本地震の避難所で最も印象に残っている薬剤師の仕事のひとつが、糖尿病患者さんへの血糖降下薬の調整です。

これは「薬剤師でなければできない仕事」の典型でした。


避難所の食事はこんな感じ

避難所で提供される食事は、炊き出しの内容によって日々変わります。

「朝:バナナ1本、夜:おにぎり2個」という日もあれば、別の日は別の内容、という具合に糖質・脂質・たんぱく質のバランスがバラバラです。

食欲がない方、食べる物自体がない方も多い。まさに「シックデイ(病気の日)」に近い状況が続きます。


低血糖が続出した理由

地震が起こる前の食生活に合わせた血糖降下薬を服用していた患者さんが、避難所での食事摂取中も同じ薬を同じ量で服用し続けました。

結果——低血糖が発生しました。

当然と言えば当然です。普段は毎食バランスのいい食事を摂っていた方が、バナナ1本・おにぎり2個の食事になれば、血糖の上昇幅が全く変わります。それなのに同じ薬を同じ量で飲み続ければ、血糖が下がりすぎてしまいます。


薬剤師の対応

この時、私たちが行った対応は2つです。

① 低血糖リスクのある薬を一時中止

食事状況が落ち着くまでの間、低血糖を引き起こす可能性のある薬を服用するのをやめていただきました。

② 一包化された薬から「抜薬」

薬がワンパック(一包化)になっている患者さんでは、そのパックの中から低血糖リスクのある薬だけを取り出す「抜薬」という作業を行いました。

これは薬の知識がある薬剤師だからこそできる対応です。どの薬が低血糖リスクを持つか、どの薬なら安全に継続できるかを即座に判断できる——これが「避難所における薬剤師の価値」です。


災害時に使いやすい糖尿病薬

この経験から、私が「災害時に使いやすい薬」として注目したのがDPP-4阻害薬です。

DPP-4阻害薬は、血糖値が高い時だけ血糖を下げ、血糖値が低い時は血糖値を下げないという特性を持ちます。つまり、食事摂取量に関わらず処方しやすく、低血糖リスクが低い。

災害時でも使用しやすい薬です。

さらにDPP-4阻害薬の中でも「リナグリプチン」は特に使いやすい。理由は、肝機能や腎機能に関係なく投与量が一定(5mg)だからです。

避難所での診察では血液検査がほぼできません。患者さんの肝機能・腎機能が正確にわからない状況で薬を処方しなければなりません。リナグリプチンは胆汁排泄型のため、腎機能・肝機能の状態がわからなくても処方しやすい——これが大きなメリットです。


DPP-4阻害薬の排泄経路の違い

参考までに、主なDPP-4阻害薬の排泄経路をまとめます。

  • シタグリプチン:腎臓87%
  • ビルダグリプチン:腎臓85%
  • アログリプチン:腎臓65%
  • リナグリプチン:胆汁90%(←腎機能影響を受けにくい)
  • テネリグリプチン:腎臓45%

腎排泄型の薬は腎機能が低下すると蓄積リスクがあります。災害時は血液検査できないため、胆汁排泄型のリナグリプチンが最も使いやすいという結論に至りました。


薬剤師がいなければわからないこと

「どの血糖降下薬が低血糖を起こしやすいか」「避難所の食事状況でどう調整すべきか」「どの薬なら腎機能不明でも安全に使えるか」——これらは医師だけでは判断しにくいことです。

薬剤師の専門知識が、避難所での患者さんの安全を守ります。

「薬剤師はただ薬を渡すだけ」——そんな誤解が少しでも解けることを願っています。


まとめ

  • 避難所の食事は栄養バランスが日々変わり、血糖コントロールに影響する
  • 同じ薬を同じ量で継続すると低血糖が発生する
  • 対応:リスクのある薬を一時中止、または一包化から「抜薬」
  • 災害時に使いやすい糖尿病薬はDPP-4阻害薬、特にリナグリプチン
  • 胆汁排泄型は腎・肝機能がわからない環境でも使いやすい

次回は、「同じ薬が何種類も混在した」問題と、現場での薬の工夫についてお伝えします。


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避難所で薬剤師がやること④ 

薬剤師の話ブログ(専門情報)

2026年6月15日月曜日

避難所で薬剤師がやること【環境整備・DVT予防・ゾーニング】【災害医療シリーズ④】

 こんばんは、田浦マインドです。

「災害時に薬剤師って何をするの?」

この質問、とても多くいただきます。今回は「薬を渡すこと以外」の薬剤師の仕事——避難所での環境整備活動について、熊本地震の経験をもとにお伝えします。


薬剤師の活動は「薬を渡すだけ」じゃない

災害現場での薬剤師の主な活動はこの4つです。

  1. 被災地に持参する医薬品の手配・管理
  2. 仮設診療所での調剤・服薬指導・DI業務
  3. 避難所への巡回診療に同行し、調剤・服薬指導・DI業務
  4. 環境整備など公衆衛生活動

4番目の「公衆衛生活動」——これが意外と知られていません。でも実は避難所での健康被害を防ぐ上で、非常に重要な仕事です。

「薬剤師の日常業務ですよ!」


避難所の環境アセスメント

避難所では衣食住が同一の環境になります。

土足が続くと手指が汚れ、様々な悪影響を引き起こします。喘息・気管支炎などの呼吸器疾患、ノロウイルスなど感染症蔓延の原因にもなります。

そこでTMATでは巡回診療時に「環境アセスメント」も行いました。具体的なチェック項目はこちらです。

  • トイレの環境と清掃、上下水道の復旧状況
  • 手洗い環境、ペーパータオルの設置
  • 手指消毒液の設置および感染予防の啓発活動
  • ゴミ置き場の区分けと管理
  • 大規模な避難所でのゾーニング(土足区域・非土足区域の区分け)

ゾーニングとは

ゾーニングとは、特定の目的のために区域を指定することです。

災害におけるゾーニングは主に2つの目的があります。

  1. 汚染の拡大を防ぎ、二次災害を防止する
  2. 被災者の動線を整理し、救助・救護活動を効率化する

熊本では2か所の避難所でゾーニングを実施しました。

作業はこうです。避難者の荷物を一旦すべて移動→清掃・消毒→区域を分けて再び荷物を移動。

これが想像以上に大変な作業でした。でも、感染症の拡大を防ぐためには欠かせません。


断水の中でのトイレ問題

熊本では断水が続きました。

トイレに水が流せない状況では、支援物資として届いた水を便器の給水タンクに補充して使用します。

大便をすると限りある水を多く使わなければならないため、大便を我慢している人が多く出ました。

結果として——被災から5日目頃から、便秘をして腹痛を訴える患者様が増え始めました。

これも災害関連の健康被害のひとつです。「水がない→排泄を我慢する→便秘→腹痛」という連鎖。


エコノミークラス症候群(DVT)との闘い

前回もお伝えしましたが、車中泊者を中心にエコノミークラス症候群(DVT:深部静脈血栓症)のリスクが非常に高まっていました。

DVTのリスクが高まる状況

  • 長時間同じ体勢
  • 水分を摂らない(トイレを我慢するため)
  • 狭い空間での生活

熊本地震ではDVTによる関連死も報告されています。

毎朝の予防体操は、理学療法士が主導で実施しました。薬剤師としては、DVTリスクが高い患者(特に抗凝固薬を服用している方)を把握し、医師・看護師と情報を共有することも大事だなと思いました。


ノロウイルス対策ポスターを手作り

断水状況では手洗いができません。手指消毒の使用を積極的に促しながら、保健センターの保健師さんと協力してウイルス性腸炎(ノロウイルス・ロタウイルス)予防のための啓発ポスターを手書きで作製しました。

また、ウイルス性腸炎の患者が出た際の隔離室も設置しました。

「感染症の蔓延を防ぐ」——これも薬剤師にできる重要な仕事です。


段ボールベッドが命を救う

最近の災害支援では「TKB48」という概念が注目されています。

T(トイレ)・K(キッチン)・B(ベッド)——この3つを発災後48時間以内に避難所へ届けることを目標とする国際標準の指標です。イタリアではこれを実現し「災害関連死ゼロ」を達成しています。

特に「B(ベッド)」、段ボールベッドの効果は絶大です。

床寝の問題点を整理すると——

  • 床からの冷気が直接伝わる(低体温・免疫低下)
  • 長時間同じ体勢でDVT発症リスクが上昇
  • 床から20cmまでほこりが舞い上がる(NHK実験)
  • 床の硬さ・物音の振動で睡眠の質が低下

段ボールベッドは保温・DVT予防・衛生改善・睡眠改善の効果があり、荷物の収納スペースにもなります。耐荷重は約500kg——一見弱そうに見えて、非常に頑丈です。

薬剤師として「この患者さんにはベッドが必要です」と声を上げ、行政・看護師・保健師と連携して優先配置を実現させる——これも立派な薬剤師の仕事です。


まとめ

避難所での薬剤師の環境整備活動:

  • 環境アセスメント(トイレ・手洗い・消毒・ゴミ管理)
  • ゾーニング(汚染区域と非汚染区域の分離)
  • DVT予防体操の支援と高リスク患者の把握
  • 感染症予防ポスター作製・隔離室設置
  • 段ボールベッドの普及推進(TKB48)

「薬を渡す」だけではない——環境整備こそが、災害関連死を防ぐ重要な薬剤師業務です。

次回は避難所で実際に起きた「血糖降下薬問題」をリアルにお届けします。


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熊本地震にTMATで参加した話③ 

薬剤師の話ブログ(専門情報)

2026年6月14日日曜日

熊本地震にTMATで参加した話【薬剤師が見た被災地のリアル】【災害医療シリーズ③】

 こんばんは、田浦マインドです。

2016年4月、熊本地震が発生しました。

最大震度7の地震が2回(4月14日と16日)、震度6強が2回、震度6弱が3回。日本の観測史上、同一地域で震度7が2回観測されたのは初めてのことでした。

私はTMAT(徳洲会医療救援隊)の一員として、熊本県上益城郡御船町での災害医療支援活動に参加しました。今回はその体験を包み隠さずお伝えします。


参加の経緯

生駒市立病院に赴任して約1年。

救急科の医師から声がかかりました。「明日から熊本の支援に行きたい。薬剤師も必要だ。一緒に来てほしい」。

迷いはありませんでした。「はい、力にならせてください」と二つ返事で参加を決めました。


移動手段は救急車

被災地への移動は、救急車でした。

緊急車両であるため高速道路の通行が可能で、物資の搬送も兼ねることができます。長時間の移動で体力を使いますが、それより早く現地に着きたいという気持ちの方が強かったです。


仮設診療所の設置

御船町に到着後、まず行ったのは24時間常駐できる仮設診療所の設置です。

保健師さんとの密な連携を図りながら、地域事情を知り尽くした保健師さんが帯同する形で複数の避難所への効率的な巡回診療を行いました。

仮設診療所の薬品は、活動初期は少数から始まり、最終的には内服薬約50品目、外用薬約40品目、注射薬約30品目となりました。

避難所への巡回診療には、持参した薬剤・物品を使用しやすいように配置し、医師の隣で限られた医薬品の中から「この状況でベストな薬は何か」を随時提案しながら診療支援を行いました。


避難所の実態

避難所となった体育館には、ベッドも布団も十分にない状態でした。

要介護者にとっての生活環境が全く整っていません。そのため**「福祉避難所」**の設置が急務となりました。

また、乳幼児を抱えた家族は子供の声や行動を気にして周囲に配慮するあまり、屋外や車中で生活する人が多く見られました。妊産婦も授乳時のプライベートスペースが確保できない状況でした。そのため、乳幼児・妊産婦専用の避難所も設置しました。


余震が止まらない夜

4月14日以降、6月下旬までに震度1以上の地震が熊本地方で1,801回発生しました。震度3以上が401回です。

夜中も余震は続きます。

「怖くて眠れない」という声が多かった。もともと睡眠薬を服用していた方が「余震が怖いから飲めない(急に目覚めたいから)」という状況も生まれました。

車中泊をしている方も多い。水分を摂らずに狭いスペースで同じ体勢を長時間とっていると——エコノミークラス症候群(深部静脈血栓症・DVT)のリスクが急激に高まります。


DVT予防体操を毎朝実施

深部静脈血栓症(DVT)は、体の深部の静脈に血栓ができる状態です。初期症状は血栓発生部の痛み・むくみ・変色。血栓が肺に飛ぶと肺塞栓を起こし、死に至ることもあります。

TMATでは、理学療法士が毎朝DVT予防体操を実施しました。

そして私たちスタッフが撤退する際、このDVT予防体操を地元の高校生に引き継いでもらいました。支援チームが去った後も体操が続けられる——この「仕組み」を残すことも、災害支援の大事な仕事だと学びました。


断水の中での感染対策

被災地は断水状況でした。

手を洗えないと感染症が広がるリスクが高まります。保健センターの保健師さんと協力して、ノロウイルス・ロタウイルスなどウイルス性腸炎を予防するための啓発ポスターを作製しました。

また、ウイルス性腸炎患者の隔離室も設置。2か所の避難所では汚染・非汚染区域のゾーニングを実施しました——避難者の荷物を一旦すべて移動し、清掃・消毒した後、区域を分けて再配置する、という作業です。土足禁止エリアも設定しました。

大変な作業でしたが、感染症の蔓延を防ぐために欠かせない取り組みでした。


薬剤師として感じたこと

被災地では「薬剤師の日常業務がそのまま役に立つ」ということを実感しました。

調剤・服薬指導・DI業務・医薬品管理・公衆衛生活動——これらは普段から病院で当たり前にやっていることです。

ただし、使える医薬品は限られ、情報も不足し、設備もない。その制約の中でベストを尽くすことが求められます。

そして最後に、被災者のみなさんと同じ炊き出しをいただきながら、「自分がここにいる意味」をかみしめました。


まとめ

  • 熊本地震は2016年4月、震度7が2回発生した記録的な地震
  • TMATとして御船町で仮設診療所設置・巡回診療に参加
  • 避難所の実態:ベッドなし・断水・余震続く車中泊
  • エコノミークラス症候群予防体操を毎朝実施し、地元高校生に引き継ぎ
  • 薬剤師の日常業務がそのまま被災地で力になる

次回は避難所での薬剤師の環境整備活動について詳しくお伝えします。


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