2026年8月5日水曜日

片頭痛の診断基準:ICHD-3で「本物の片頭痛」を見極める【片頭痛シリーズ②】

 「私の頭痛、本当に片頭痛?」——この疑問、実は多くの患者さんが持っています。今回は国際頭痛分類第3版(ICHD-3)の診断基準と、危険な頭痛を除外するための考え方を解説します。


なぜ診断基準を知る必要があるのか

片頭痛の治療は「正確な診断」から始まります。

「頭が痛い=片頭痛」ではありません。頭痛には緊張型頭痛・群発頭痛・二次性頭痛(脳腫瘍・くも膜下出血など)など様々な種類があります。

特に**二次性頭痛(原因疾患がある頭痛)**を見逃すと命に関わります。片頭痛の診断は、危険な頭痛を除外してから行います。


「危険な頭痛」を見分けるレッドフラッグサイン

以下のサインがある場合は、片頭痛ではなく緊急の評価が必要です。

SNOOP4(スヌープ4)

文字サイン示唆する疾患
SSystemic symptoms(全身症状):発熱・体重減少感染・悪性疾患
NNeurological symptoms(神経症状):麻痺・意識障害脳梗塞・脳腫瘍
OOnset(発症様式):突然始まる「人生最悪の頭痛」くも膜下出血
OOlder age(高齢発症):50歳以降の初発頭痛脳腫瘍・側頭動脈炎
PProgressive(進行性):増悪する頭痛脳腫瘍・慢性硬膜下血腫
PPositional(体位性):体位で変化する頭痛低髄液圧症候群
PPrecipitated(誘発):咳・運動・性行為で誘発頭蓋内圧亢進
PPapilledema(うっ血乳頭):視神経乳頭浮腫頭蓋内圧亢進

特に「今まで感じたことのない頭痛・突然始まった激しい頭痛」はくも膜下出血の可能性があり、救急受診が必要です。


ICHD-3「前兆のない片頭痛」の診断基準

国際頭痛分類第3版(ICHD-3、2018年)による診断基準です。

A. B〜Dを満たす頭痛発作が5回以上ある

B. 頭痛発作の持続時間は4〜72時間 (未治療、または治療が無効の場合)

C. 頭痛は以下の4つの特徴の少なくとも2項目を満たす ① 片側性 ② 拍動性 ③ 中等度〜重度の頭痛 ④ 日常的な動作(歩行・階段昇降)により頭痛が増悪する、またはそのために避ける

D. 頭痛発作中に少なくとも以下の1項目を満たす ① 悪心または嘔吐(あるいはその両方) ② 光過敏および音過敏

E. ほかに最適なICHD-3の診断がない


診断基準をわかりやすく解説

「5回以上」が必要な理由

1〜2回の頭痛では偶発的な可能性があるため、診断には5回以上の発作が必要です。

「4〜72時間」の意味

短い(4時間未満)または非常に長い(72時間超)頭痛は片頭痛の典型から外れる可能性があります。

ただし、治療が効いた場合は4時間未満で治まることもあります。「未治療または治療が無効の場合」という条件がついているのはそのためです。

Cの「2項目以上」を具体的に考える

例)拍動性+中等度以上の強さ → 2項目満たす → C条件クリア 例)片側性+動作で増悪 → 2項目満たす → C条件クリア

Dの「悪心または光過敏・音過敏」

片頭痛の特徴的な随伴症状です。「ズキズキするし、吐き気もある」「光がまぶしくてカーテンを閉めたくなる」がヒントになります。


緊張型頭痛との鑑別

最も多く混同されるのが緊張型頭痛(肩こり・首こりに関連した締め付ける頭痛)との鑑別です。

特徴片頭痛緊張型頭痛
痛みの性質ズキズキ(拍動性)ギュー(締め付け・圧迫感)
強さ中等度〜重度軽度〜中等度
部位片側(または両側)両側が多い
動作による影響増悪する増悪しない
悪心・嘔吐あることが多い通常ない
光・音過敏あることが多い通常ない

群発頭痛との鑑別

群発頭痛も片側性で強い頭痛ですが、全く異なります。

特徴片頭痛群発頭痛
部位片側(または両側)片側・眼周囲・眼窩
持続時間4〜72時間15〜180分(短い)
頻度月数回程度1〜8回/日(群発期)
自律神経症状ほぼなし結膜充血・流涙・鼻閉
行動安静にしていたい落ち着きがなく歩き回る
性別女性に多い男性に多い

片頭痛の診断は医師の役割

診断基準を知っておくことは、薬剤師として「この患者さんは受診が必要かどうか」を判断するのに役立ちます。

しかし最終的な診断は医師の仕事です。

「市販の鎮痛薬を飲み続けているが効かない」「頭痛がひどくて仕事・学校を休むことがある」「月に何度も頭痛がある」——こういった患者さんには、頭痛専門外来(神経内科・脳神経外科・頭痛外来)への受診を勧めることが薬剤師の重要な役割です。


まとめ

  • 頭痛診断の第一歩は危険な二次性頭痛の除外(SNOOP4)
  • 「今まで最悪の頭痛・突然始まった激しい頭痛」→ 救急へ
  • ICHD-3診断基準:5回以上の発作 × C条件2項目以上 × D条件1項目以上
  • 緊張型頭痛との鑑別:ズキズキ(片頭痛)vs ギュー(緊張型)
  • 市販薬が効かない・月に複数回→ 受診勧奨が薬剤師の役割

次回は「片頭痛患者の70%が未治療——社会の誤解と現実」を解説します。


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