2026年8月29日土曜日

JAK阻害薬:内服可能な分子標的薬の特徴と帯状疱疹リスク【RAシリーズ⑨】

 2013年に日本初のJAK阻害薬(トファシチニブ)が登場して以来、5剤が承認されています。生物学的製剤と並ぶ選択肢として重要なJAK阻害薬を解説します。


JAK阻害薬とは

JAK(Janus Kinase:ヤヌスキナーゼ)は、炎症性サイトカインが受容体に結合した際に活性化される細胞内シグナル分子です。

JAKが活性化されると→STAT(シグナル伝達兼転写活性化因子)がリン酸化→核内で遺伝子転写活性化→サイトカイン産生亢進・免疫細胞活性化

JAK阻害薬はこのシグナル伝達を細胞内で遮断します。

生物学的製剤との最大の違い:内服薬

生物学的製剤は皮下注射または点滴で投与しますが、JAK阻害薬は全て内服薬です。注射が苦手な患者さん・自己注射が難しい患者さんにとって大きなメリットです。


日本で承認されている5剤のJAK阻害薬

製品名一般名承認年標的JAK
ゼルヤンツ®トファシチニブ2013年JAK1/3(>2)
オルミエント®バリシチニブ2017年JAK1/2
スマイラフ®ペフィシチニブ2019年JAK3/1/TYK2(>2)
リンヴォック®ウパダシチニブ2020年JAK1(選択的)
ジセレカ®フィルゴチニブ2020年JAK1(選択的)

5剤の詳細比較

トファシチニブ(ゼルヤンツ®)

項目内容
投与方法5mg錠を1錠、1日2回(朝夕食後)
代謝主に肝代謝・30%腎排泄
相互作用CYP3A4阻害剤(グレープフルーツ・一部の薬剤)注意
特記65歳以上で一部制限あり
薬価¥2,260.9/5mg錠

バリシチニブ(オルミエント®)

項目内容
投与方法2mg錠を2錠(4mg)、1日1回(夕食後)
代謝主に肝代謝・70%腎排泄(腎機能低下で要注意)
相互作用プロベネシド(腎排泄阻害)注意
特記eGFR<30では禁忌。70歳以上・体重40kg以下なら1錠
薬価¥2,300/2mg錠

ペフィシチニブ(スマイラフ®)

項目内容
投与方法50mg錠を3錠(150mg)、1日1回(夕食後)
代謝主に肝代謝・〜37%腎排泄
薬価¥1,315.3/50mg錠

ウパダシチニブ(リンヴォック®)

項目内容
投与方法7.5mg錠を2錠(15mg)、1日1回(夕食後)
代謝一部肝代謝・24%腎排泄
特記体重40kg以下なら1錠。JAK1選択的でエビデンス豊富
薬価¥2,205.4/7.5mg錠

フィルゴチニブ(ジセレカ®)

項目内容
投与方法100mg錠を2錠(200mg)、1日1回(夕食後)
代謝主に腸管代謝・87%以上腎排泄
特記eGFR<60では100mg(1錠)に減量。eGFR<15では禁忌
薬価¥2,141.9/100mg錠

JAK阻害薬最大の注意点:帯状疱疹

JAK阻害薬は生物学的製剤と比べ、帯状疱疹の発生率が高いことが最大の注意点です。

薬剤帯状疱疹発生率(/患者100人年)
TNF阻害薬(生物学的製剤)2〜3
JAK阻害薬(全体)約4〜9(特に日本人・韓国人・台湾人が高い)
トファシチニブ(日本人・韓国人)9.2
バリシチニブ3.1〜4.4
ペフィシチニブ(アジア人)7.3
ウパダシチニブ(アジア人)11.1(15mg)
フィルゴチニブ1.1〜1.7

特にアジア人患者での帯状疱疹発生率が高い傾向があります。


帯状疱疹への対策

帯状疱疹ワクチンの接種推奨

JAK阻害薬開始前または開始後に帯状疱疹ワクチン(乾燥組換え帯状疱疹ワクチン:シングリックス®)の接種を推奨します。

シングリックス®の特徴:

  • 組換えタンパク質サブユニットワクチン(生ワクチンではない)
  • 50歳以上に使用可能
  • 帯状疱疹予防効果:高齢者でも90%以上
  • 2回接種(2ヶ月以上間隔を空けて)

生ワクチン(ビケン®)は免疫抑制患者には禁忌ですが、シングリックス®は免疫抑制患者にも使用できます。

薬剤師として服薬指導の際に「帯状疱疹ワクチン、接種されましたか?」と確認することが重要です。

帯状疱疹の早期症状

「皮膚のビリビリする痛み・小さい水疱の集まり」が帯状疱疹の初期症状です。

服薬指導での一言:「体の左右どちらかに帯状の皮疹や痛みが出たら、早めに受診してください」


JAK阻害薬のその他の注意点

悪性腫瘍リスク: 50歳以上を対象にした試験で、一部のJAK阻害薬ではTNF阻害薬より悪性腫瘍が多い可能性が指摘されています。悪性腫瘍の既往・家族歴がある患者さんでは慎重に検討。

血栓リスク: JAK阻害薬の添付文書に「深部静脈血栓症・肺塞栓症」のリスクが追記されています。

心血管イベント: 一部のJAK阻害薬でリスクが指摘されており、55歳以上かつ心血管リスクが高い患者さんでは慎重に。


JAK阻害薬とbDMARDの選択

ガイドライン(JCR 2024)では:

長期安全性・医療経済の観点からbDMARD(生物学的製剤)を優先する

「JAK阻害薬は悪性腫瘍・心血管イベント・血栓イベントのリスク因子を考慮する」

JAK阻害薬は内服薬という大きなメリットがある一方、上記のリスクを考慮した上で患者さんと一緒に選択することが重要です。


まとめ

  • JAK阻害薬は5剤。全て内服薬(注射不要)
  • 生物学的製剤と同等の有効性と関節破壊抑制効果
  • 最大の注意点:帯状疱疹リスクが高い(特にアジア人)
  • 帯状疱疹ワクチン(シングリックス®)の接種を強く推奨
  • 悪性腫瘍・血栓・心血管リスクも考慮が必要
  • ガイドラインでは長期安全性からbDMARDを優先

次回は「バイオシミラー(BS)の活用と医療費の考え方」を解説します。


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