「私の頭痛、本当に片頭痛?」——この疑問、実は多くの患者さんが持っています。今回は国際頭痛分類第3版(ICHD-3)の診断基準と、危険な頭痛を除外するための考え方を解説します。
なぜ診断基準を知る必要があるのか
片頭痛の治療は「正確な診断」から始まります。
「頭が痛い=片頭痛」ではありません。頭痛には緊張型頭痛・群発頭痛・二次性頭痛(脳腫瘍・くも膜下出血など)など様々な種類があります。
特に**二次性頭痛(原因疾患がある頭痛)**を見逃すと命に関わります。片頭痛の診断は、危険な頭痛を除外してから行います。
「危険な頭痛」を見分けるレッドフラッグサイン
以下のサインがある場合は、片頭痛ではなく緊急の評価が必要です。
SNOOP4(スヌープ4)
| 文字 | サイン | 示唆する疾患 |
|---|---|---|
| S | Systemic symptoms(全身症状):発熱・体重減少 | 感染・悪性疾患 |
| N | Neurological symptoms(神経症状):麻痺・意識障害 | 脳梗塞・脳腫瘍 |
| O | Onset(発症様式):突然始まる「人生最悪の頭痛」 | くも膜下出血 |
| O | Older age(高齢発症):50歳以降の初発頭痛 | 脳腫瘍・側頭動脈炎 |
| P | Progressive(進行性):増悪する頭痛 | 脳腫瘍・慢性硬膜下血腫 |
| P | Positional(体位性):体位で変化する頭痛 | 低髄液圧症候群 |
| P | Precipitated(誘発):咳・運動・性行為で誘発 | 頭蓋内圧亢進 |
| P | Papilledema(うっ血乳頭):視神経乳頭浮腫 | 頭蓋内圧亢進 |
特に「今まで感じたことのない頭痛・突然始まった激しい頭痛」はくも膜下出血の可能性があり、救急受診が必要です。
ICHD-3「前兆のない片頭痛」の診断基準
国際頭痛分類第3版(ICHD-3、2018年)による診断基準です。
A. B〜Dを満たす頭痛発作が5回以上ある
B. 頭痛発作の持続時間は4〜72時間 (未治療、または治療が無効の場合)
C. 頭痛は以下の4つの特徴の少なくとも2項目を満たす ① 片側性 ② 拍動性 ③ 中等度〜重度の頭痛 ④ 日常的な動作(歩行・階段昇降)により頭痛が増悪する、またはそのために避ける
D. 頭痛発作中に少なくとも以下の1項目を満たす ① 悪心または嘔吐(あるいはその両方) ② 光過敏および音過敏
E. ほかに最適なICHD-3の診断がない
診断基準をわかりやすく解説
「5回以上」が必要な理由
1〜2回の頭痛では偶発的な可能性があるため、診断には5回以上の発作が必要です。
「4〜72時間」の意味
短い(4時間未満)または非常に長い(72時間超)頭痛は片頭痛の典型から外れる可能性があります。
ただし、治療が効いた場合は4時間未満で治まることもあります。「未治療または治療が無効の場合」という条件がついているのはそのためです。
Cの「2項目以上」を具体的に考える
例)拍動性+中等度以上の強さ → 2項目満たす → C条件クリア 例)片側性+動作で増悪 → 2項目満たす → C条件クリア
Dの「悪心または光過敏・音過敏」
片頭痛の特徴的な随伴症状です。「ズキズキするし、吐き気もある」「光がまぶしくてカーテンを閉めたくなる」がヒントになります。
緊張型頭痛との鑑別
最も多く混同されるのが緊張型頭痛(肩こり・首こりに関連した締め付ける頭痛)との鑑別です。
| 特徴 | 片頭痛 | 緊張型頭痛 |
|---|---|---|
| 痛みの性質 | ズキズキ(拍動性) | ギュー(締め付け・圧迫感) |
| 強さ | 中等度〜重度 | 軽度〜中等度 |
| 部位 | 片側(または両側) | 両側が多い |
| 動作による影響 | 増悪する | 増悪しない |
| 悪心・嘔吐 | あることが多い | 通常ない |
| 光・音過敏 | あることが多い | 通常ない |
群発頭痛との鑑別
群発頭痛も片側性で強い頭痛ですが、全く異なります。
| 特徴 | 片頭痛 | 群発頭痛 |
|---|---|---|
| 部位 | 片側(または両側) | 片側・眼周囲・眼窩 |
| 持続時間 | 4〜72時間 | 15〜180分(短い) |
| 頻度 | 月数回程度 | 1〜8回/日(群発期) |
| 自律神経症状 | ほぼなし | 結膜充血・流涙・鼻閉 |
| 行動 | 安静にしていたい | 落ち着きがなく歩き回る |
| 性別 | 女性に多い | 男性に多い |
片頭痛の診断は医師の役割
診断基準を知っておくことは、薬剤師として「この患者さんは受診が必要かどうか」を判断するのに役立ちます。
しかし最終的な診断は医師の仕事です。
「市販の鎮痛薬を飲み続けているが効かない」「頭痛がひどくて仕事・学校を休むことがある」「月に何度も頭痛がある」——こういった患者さんには、頭痛専門外来(神経内科・脳神経外科・頭痛外来)への受診を勧めることが薬剤師の重要な役割です。
まとめ
- 頭痛診断の第一歩は危険な二次性頭痛の除外(SNOOP4)
- 「今まで最悪の頭痛・突然始まった激しい頭痛」→ 救急へ
- ICHD-3診断基準:5回以上の発作 × C条件2項目以上 × D条件1項目以上
- 緊張型頭痛との鑑別:ズキズキ(片頭痛)vs ギュー(緊張型)
- 市販薬が効かない・月に複数回→ 受診勧奨が薬剤師の役割
次回は「片頭痛患者の70%が未治療——社会の誤解と現実」を解説します。
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