2026年7月9日木曜日

腹痛の鑑別診断:部位から疾患を絞る方法【薬歴シリーズ⑱】

 こんばんは、田浦マインドです。

「お腹が痛い」という訴えは非常に多い症状ですが、原因は多岐にわたります。今回は腹部の「部位」から疾患を絞る方法と、薬剤師が注意すべきポイントを解説します。


腹痛の部位で疾患を絞る

腹部を9分割(右上・上・左上・右中・中・左中・右下・下・左下)して考えると、痛みの部位から疾患の絞り込みができます。

右上腹部

  • 胆石症・急性胆嚢炎(脂肪食後に悪化することが多い)
  • 肝炎・肝膿瘍
  • 右側の肺炎・胸膜炎

心窩部(みぞおち付近)

  • 胃炎・消化性潰瘍(食前・空腹時に悪化することが多い)
  • 急性膵炎
  • 急性心筋梗塞(要注意!)

心窩部痛は「心筋梗塞」の可能性があります。腹痛でも心電図確認を忘れずに。

左上腹部

  • 胃炎・胃潰瘍
  • 脾梗塞・脾腫
  • 急性膵炎

臍周囲

  • 虫垂炎(初期は臍周囲痛から始まり、右下腹部へ移動する)
  • 小腸疾患
  • 大動脈瘤

右下腹部

  • 急性虫垂炎(最も典型的な部位)
  • 卵巣嚢腫・卵管捻転(女性)
  • 鼠径ヘルニア

左下腹部

  • 大腸憩室炎
  • 過敏性腸症候群(IBS)
  • 卵巣疾患(女性)

見逃してはいけない腹部緊急疾患

①急性虫垂炎

典型的な症状は「臍周囲痛→右下腹部への移動パターン」。発熱・悪心・食欲低下を伴います。

若い女性の右下腹部痛では虫垂炎だけでなく、卵巣嚢腫捻転・卵管外妊娠(子宮外妊娠)も鑑別が必要です。最後の月経を確認することは女性の腹痛の基本です。

②腸閉塞(イレウス)

腹痛+腹部膨満+排便停止+嘔吐が典型。腸蠕動音の減少・消失。

薬剤師が注意すべき点:麻薬性鎮痛薬(オピオイド)は腸蠕動を抑制します。オピオイドを使用している患者さんが腸閉塞のリスクがあります。

③急性膵炎

「上腹部〜背部への放散痛」が特徴的。飲酒・胆石が主な原因。激しい痛みで動けない状態になることが多いです。


腹痛とともに確認すべき随伴症状

腹痛単独より、随伴症状を合わせて評価することで鑑別精度が上がります。

随伴症状示唆する疾患
発熱感染性(虫垂炎・胆嚢炎・腸炎)など
嘔吐・嘔気腸閉塞・急性膵炎・腸炎
下痢腸炎(細菌性・ウイルス性)・IBS
血便大腸癌・潰瘍性大腸炎・虚血性腸炎
黄疸胆道疾患・肝疾患
無月経+腹痛子宮外妊娠(緊急)

薬剤師が知っておくべき「薬剤性腹痛」

腹痛の原因として薬剤が関与していることがあります。

NSAIDs・低用量アスピリン → 胃粘膜障害・消化性潰瘍による上腹部痛。胃薬の併用が重要。

抗菌薬(特にクリンダマイシン・セフェム系) → クロストリジウム・ディフィシル腸炎(偽膜性腸炎)のリスク。水様性下痢+腹痛に注意。

オピオイド → 便秘・腸閉塞のリスク。オピオイド誘発性便秘(OIC)に対する対策が重要。

メトホルミン → 消化器症状(悪心・下痢・腹痛)は代表的な副作用。食後服用・少量から開始で軽減できます。

SGLT2阻害薬 → 尿路感染症・性器感染症。重篤なケースでは腹痛を伴う糖尿病性ケトアシドーシスにも注意。


実践例:28歳女性「右下腹部が痛い」

昨夜から右下腹部が痛い。最初はおへその周りだった。吐き気あり、微熱(37.6℃)。

OPQRSTで評価すると:

  • O(発症):昨夜から徐々に発症
  • Q(性状):持続する鈍痛
  • R(部位):臍周囲から右下腹部へ移動
  • T(時間):昨夜から持続、悪化傾向

「臍周囲痛→右下腹部への移動パターン」は虫垂炎の典型。

さらに確認すべき:最終月経(女性の腹痛では必須)

→ 至急、外科・婦人科への受診を勧める。


まとめ

  • 腹部の部位で疾患を絞ることができる
  • 心窩部痛は「心筋梗塞の可能性」を常に念頭に
  • 「臍周囲痛→右下腹部移動」は虫垂炎の典型パターン
  • 女性の腹痛では最終月経を確認する(子宮外妊娠を除外)
  • 薬剤性腹痛(NSAIDs・抗菌薬・オピオイド)も必ず確認する
  • 血便・黄疸・意識変容を伴う腹痛は緊急対応

次回は「発熱の鑑別診断:薬剤熱を見逃すな」を解説します。


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