「頭痛が最近ひどくなった気がする。もっと薬を飲まないと」——待ってください。その頭痛、薬の飲みすぎが原因かもしれません。今回は薬剤使用過多による頭痛(MOH)を解説します。
MOHとは何か
**MOH(Medication Overuse Headache)**とは「薬剤使用過多による頭痛」のことです。「薬物乱用頭痛」とも呼ばれます。
片頭痛や緊張型頭痛の患者さんが、頭痛の治療薬(市販薬・鎮痛薬・トリプタン・エルゴタミン製剤など)を過剰に使用し続けると、逆に頭痛の頻度が増えて連日のように頭痛が起こるようになることです。
悪循環のメカニズム
MOHが起きる悪循環を理解しましょう。
頭痛が起きる
↓
鎮痛薬を飲む → 一時的に楽になる
↓
薬が切れると頭痛が戻る(反跳性頭痛)
↓
「また薬を飲まなければ」→ 薬の使用頻度が増える
↓
痛みに対する感覚が過敏になる(中枢感作)
↓
より頻繁に・より強い頭痛が起きるようになる
↓
さらに薬を飲む……(悪循環)MOHの発症には中枢感作(痛みの感覚が過敏になること)と三叉神経節の機能変化が関与していると考えられています。
MOHの診断基準
ICHD-3(国際頭痛分類第3版)によるMOHの診断基準:
A. 以前から頭痛疾患をもつ患者において、頭痛が1ヶ月に15日以上存在する
B. 1種類以上の急性期または対症的頭痛治療薬を3ヶ月を超えて定期的に乱用している
どのくらいで「乱用」になるか
薬の種類によって「乱用」の基準が異なります。
| 薬剤の種類 | 乱用の基準(月の服薬日数) |
|---|---|
| エルゴタミン | 10日以上 |
| トリプタン | 10日以上 |
| 非オピオイド系鎮痛薬(NSAIDs・アセトアミノフェン) | 15日以上 |
| オピオイド | 10日以上 |
| 複合鎮痛薬(セデスなど) | 10日以上 |
特に注意:MOHで最も多いのは複合鎮痛薬による乱用頭痛です。
市販の頭痛薬(セデス®・イブ®・バファリン®など)には複数の成分が含まれていることが多く、「よく効く」からとよく飲んでしまいがちです。
日本での衝撃的なデータ
糸魚川市民を対象にした国内初の有病率調査によると、15〜64歳の2.32%がMOHになっている可能性があると報告されました。
約43人に1人という計算です。
「市販の痛み止めをたくさん自己判断で飲む」→ 「予防薬を使わない」→ 「MOHになる」——このパターンが非常に多いです。
MOHのセルフチェックリスト
以下の項目のうち4つ以上当てはまれば、MOHの可能性が高いとされています。
□ 頭痛は明け方から起床時に多い □ 3日に1回は鎮痛薬(痛み止め)を服用している □ 軽い頭痛時は市販薬、強い頭痛時は処方薬と自分で服用順序を決めている □ 大事な仕事やイベントの前は「頭痛予防」のため鎮痛剤を飲んでしまう □ 昔から頭痛持ちだ □ 頭痛のタイプが日によりバラバラで、締め付けるような痛み・頭重感が多い □ 頭痛の部位がバラバラだ □ 今まで効いていた薬の効果が弱く・短くなってきたが、飲むと落ち着く □ 気持ちが落ち込んだり、ちょっとしたことでパニックになる □ 生理痛・腰痛・歯痛などちょっとしたことでもすぐ鎮痛剤を飲む
MOHの治療
MOHの治療の基本は**「乱用薬の中断(断薬)」**です。
断薬のプロセス:
- 乱用している急性期薬を止める(または大幅に減らす)
- 同時に予防薬を開始する
- 断薬中の1〜2週間は激しい頭痛・悪心に悩まされることがある(withdrawal headache)
- 断薬後、頭痛の頻度は徐々に改善する
断薬後の予後:
- 約70%の患者さんでMOHが改善する
- ただし約30%が再発する(→ 再発予防のための指導が重要)
薬剤師だからこそできること
MOHの予防・早期発見・指導において薬剤師は非常に重要な役割を担えます。
OTC薬販売時の声かけ
「この鎮痛薬、月に何日くらい使っていますか?」 「月に10日以上使っている場合は、頭痛外来への受診をお勧めします」
処方箋受付時の確認
トリプタンや鎮痛薬が頻繁に処方・使用されている患者さんに対して: 「最近、どのくらいの頻度で頭痛が起きていますか?」 「薬を飲む回数が増えてきていませんか?」
頭痛ダイアリーの活用促進
頭痛ダイアリーをつけることで、患者さん自身が服薬日数を客観的に確認できます。「月に10日超えていないかな」と自己管理できるようになります。
まとめ
- MOH(薬剤使用過多による頭痛):頭痛薬の飲みすぎで逆に頭痛がひどくなる
- 乱用の基準:トリプタン・エルゴタミン・複合鎮痛薬は月10日以上、NSAIDsは月15日以上
- 最も多いのは複合鎮痛薬(市販の頭痛薬)による乱用
- 日本の2.32%(43人に1人)がMOHになっている可能性(糸魚川市調査)
- 治療は断薬+予防薬開始。70%が改善するが30%は再発
- 薬剤師は販売時・処方確認時・頭痛ダイアリー活用でMON予防に貢献できる
次回は「頭痛ダイアリーの活用と薬剤師による服薬支援の実際」を解説します。
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