▽フリーマゴットでの治療方法
<治療前日からの準備> マゴットの成長を妨げる可能性が
あるため、患部の軟膏や酸性水の
使用を中止しておく。
幼虫の創への投与の仕方
①通常2回/週で取り替え3~4週間この治療を続行します。
②ウジの取り替え時に傷の改善を確認ください。傷の細菌検査・全身の感染データ(白血球、CRP等)も適時ご検討ください。
③使用前に創を生理食塩水で洗浄してください。
④マゴットの容器から清潔なハケ等でマゴットを取り出し、創に乗せる
⑤マゴット治療専用のドレッシングもしくは市販のドレッシングでカバーする。(1回の使用は傷1平方cmあたり7~8匹を目安としてください。)
⑥マゴットが成長しても動けるように、創とドレッシングに隙間を持たせて装着する。
▽マゴットセラピーでの禁忌・慎重使用例
下記項目に該当する場合は禁忌または慎重使用例と考えられます。十分検討の上使用を決定し、治療中は十分な観察をするとともに、有害な事象が出現した場合は直ちにその使用を中止して下さい。 ・著しい血流障害を伴いその改善が困難な場合。 ・患部感染が急速に進み外科的切除の早期施行が必要とされる場合。 ・未処置骨髄炎を併発している場合。 ・太い血管または消化管が露出している創。 ・コントロール困難な出血性疾患を合併する場合 ・体内深部に通じる創。 ・ウジに対する過敏症(アレルギー)を有する場合(過去に医療用ウジの使用で 過敏症を 起こした経験がある場合)。
▽マゴットセラピーの副作用とその対策
海外での使用実績からはマゴット(医療用ウジ)の使用による重大な副作用は報告されていませんが、下記の様な症状が生ずる可能性があります。
1.疼 痛
「つつかれるような感じ」から「痛み」まで表現は様々ですが、5~30%の症例に認められるといわれています。糖尿病性潰瘍・壊疽の場合は比較的軽度ですが、治療前から痛みが生じていた場合や閉塞性動脈硬化症(ASO)・閉塞性血栓性血管炎(バージャー病)などの末梢動脈性疾患では強い痛みを感じることがあります。 マゴットによる直接的な機械刺激や創面のpH上昇が原因と考えられています。通常は鎮痛剤の内服や筋肉注射にてコントロール可能ですが、治療前に強い痛みが予想される時は硬膜外チューブをあらかじめ挿入し、持続硬膜外麻酔下に治療を行う場合もあります。もし痛みが強く我慢できない場合はマゴットを患部より取り除くことですみやかに症状は消失します。
2.出 血 1%未満の割合と言われていますが、創面からの出血も報告されています。出血性素因がある場合や創面に露出する血管壁の一部が壊死を起こしている場合に生じやすくなります。通常は微量な出血ですみますが、出血が持続する場合はマゴットを取り除くとともに止血処置が必要となります。
3.発 熱 一時的な発熱が認められることがあります。メカニズムは不明ですが、マゴットの分泌物に含まれるサイトカインという炎症物質が原因とも考えられています。解熱剤の使用にても発熱が持続する場合はマゴットを取り除いてみることも必要となります。
4.感染,炎症による創傷悪化 マゴットは特別な無菌処理を行っており、明らかな病原菌の媒介は報告されていません。しかしマゴットセラピーを行うことにより蜂窩織炎の悪化など既存の感染や炎症が増悪したケースも報告されています。このような場合は治療の中止が必要となります。
5.臭 気 マゴットが壊死組織を融解するために、一時的に創部からの浸出液がアンモニアと類似した臭気を発します。外側のガーゼ交換や消臭剤の使用で対処します。
6.高アンモニア血症 1万匹を超える幼虫に感染した家畜が、幼虫が放出するアンモニアによって高アンモニア血症を起こした報告があります。マゴットセラピーにおいてはこのような多数の幼虫を用いることがないため、有害な高アンモニア血症が起こった事例は過去に報告されていませんが、原因不明の発熱・精神症状・食欲不振などが持続する場合は、血中アンモニアの測定とともに幼虫を取り除いてみることも必要となります。
▽マゴットセラピーQ&A
Q:マゴットが有害な病原菌を媒介することはないのですか?
A:現在までに当社が用いている種(ヒロズキンバエ)よる有害な病原菌の感染は報告されていません。当社より提供されるマゴットは独自の方法で無菌化されており、これを用いる限りその危険性はないと思われます。ただし、マゴットが滅菌容器から患部に移されるまでの不適切な操作によりコンタミネーション(雑菌混入)が起こる可能性はあります。この様な場合もマゴットセラピーの対象となる患部には多数の病原菌が存在することが多いので、治療上問題なることはあまりありません。
Q:マゴットが正常な組織を食べたり、患部の中に潜り込んでしまうことはないのですか?
A:マゴットが壊死組織よりも正常な組織を優先して融解してしまうことはありません。またマゴットの尾部には気門と呼ばれる呼吸器があります。マゴットは常にこの気門を通じて呼吸をしているため、空気の届かない患部の奥深くに潜り込むことはありません。
Q:患部で成虫に羽化してしまうことはないのですか?
A:当社が提供している種は、卵からふ化したマゴットが成虫になるまでには通常10日以上かかります。患部に置かれたマゴットは48~72時間で取り除かれますから、その途中で成虫のハエになってしまうことはありません。
Q:患部に取り残されたマゴットがそのままハエになってしまうことはないのですか?
A:成熟したマゴットはサナギになるために乾燥した環境を求めて患部の外へ出ようとするために、患部にマゴットがとどまり、そのままでサナギからハエになることはありません。
Q:患部に卵を産みつけることはないのですか?
A:卵を産むのは成虫のハエだけで、マゴットが卵を産むことはありません。
Q:治療中にマゴットが死ぬことはないのですか?
A:治療の途中に患部で死んでしまうマゴットもいますが、患部に悪影響を及ぼすことはありません。
Q:患部をマゴットが動き回るのは感じますか?また、治療の途中に痛みはないのですか?
A:多くの場合の場合患部マゴットがいることさえわからない位何も感じませんが、中には「つつかれるような感じ」や「掻痒感」を感じるケースもあります。また疾患によっては痛みを強く感じることがあります。このような場合は痛みを取り除く処置(鎮痛剤の内服や硬膜外麻酔など)にてコンロトールしますが、我慢できない時はマゴットを取り除くことが必要となります。
Q:マゴットセラピーにより悪臭が発生することはありますか?
A:治療中にマゴットが分泌する酵素とそれによって溶解された壊死組織が一時的に悪臭を発することがありますが、治療が終了し壊死組織が除去されると悪臭は消失します。
Q:マゴットを置くと患部の浸出液は多くなりますか?
A:マゴットの分泌液とそれによって溶解された壊死組織により、一時的に創部からの浸出液は増加することが多いといわれています。