こんばんは、田浦マインドです。
今回から「災害医療シリーズ」をスタートします。
私は熊本地震(2016年)と能登半島地震(2024年)に災害派遣薬剤師として参加し、現在は徳洲会グループ薬剤師災害医療研究会の委員長を務めています。
「災害医療って、救急医療の規模が大きくなったものでしょ?」——そう思っている方、少し待ってください。この勘違いが、いざという時に命取りになります。
災害医療の定義
災害医療とは、地震・津波・豪雨・火山噴火・大規模事故などにより、対応する側の医療能力を上回るほど多数の医療対象者が発生した際に行われる医療のことです。
一言で言えば、**「需要と供給のバランスが崩れた状態での医療」**です。
救急医療との決定的な違い
救急医療と災害医療は、根本的に異なります。
救急医療は、患者に対して十分な医療を供給できる環境下で行われる「日常的な医療」の一部です。医療関係者の手により「患者にとって必要なすべての医療」が提供されます。
災害医療は、急激な傷病者の増加に医療供給が全く追いつかない状況下で行われます。電気・水道などのインフラも被災し、停電・断水の中、医薬品の供給もストップするという、想像以上に過酷な状況です。
ここが重要なポイントです。
災害医療では、最初から「患者にとって必要なすべての医療を提供すること」は不可能です。
これは患者さんにもきちんと説明しなければなりません。
「単純に規模が大きくなっただけ」という勘違いが命を奪う
救急医療の規模が大きくなったものが災害医療だ、と勘違いすると——実際の現場に出た時に救えたはずの命が失われかねません。
例えばトリアージ(重症度分類)。
救急医療では、一人の患者につき2〜3分をかけてトリアージを行います。
しかし災害医療では、60人の患者が一度に来た場合、1人に1分かけると60番目の患者は到着後1時間以上、重症か軽症かもわからない状態で放置されることになります。実際の災害では患者数が60人で済むはずもなく、その後に診察・応急処置・手術が続くのです。
だから災害医療では、1人あたり30秒以内でトリアージを完了できるよう、「START式トリアージ」という簡素化された方法が使われます。
災害医療のトリアージ区分
トリアージとは、患者の重症度に基づいて治療の優先度を決定することです。
区分は4つ。
- 赤(Ⅰ:緊急) 生命・四肢に危険な状況で直ちに処置が必要
- 黄(Ⅱ:準緊急) 2〜3時間処置を遅らせても悪化しない程度
- 緑(Ⅲ:軽症) 軽度外傷、通院治療が可能な程度
- 黒(0:死亡) 生命兆候のないもの
これは非常に合理的なようで、実はとても辛い判断が求められます。「全員を平等に救おうとすると、全員を救えなくなる」——これが災害医療の根本にある哲学です。
72時間の壁
もうひとつ知っておくべき重要な概念が「72時間の壁」です。
発災後72時間を超えると、発見される被災者の救命率は大幅に低下します。
しかし——72時間を過ぎたら災害医療が終わるわけではありません。
むしろ72時間以降は、医療ニーズの「中身」が変わります。急性外傷の患者が減り、代わりに**慢性疾患の悪化(高血圧・糖尿病・認知症)や精神的疾患(不安・不眠)**が主体になってきます。
熊本地震では「関連死」が直接死の約4倍に達しました。直接死50人に対し、関連死は218人。
薬を飲めなかった、避難所の環境が悪かった、エコノミークラス症候群になった——こうした「直接の被害ではない死」を防ぐことが、72時間以降の最大の使命になるのです。
日本の災害医療を担う組織
国内で全国規模の災害医療能力を持つのは、自衛隊と日本赤十字社の2組織だけです。
これ以外に、平時から専門訓練を受けた医師・看護師が組織するDMAT(災害派遣医療チーム)が急性期に活動し、72時間以降にはJMAT(日本医師会災害医療チーム)が引き継ぎます。
私が所属する徳洲会グループのTMAT(徳洲会医療救援隊)は民間の医療支援団体として、阪神淡路大震災以降、国内外計40回以上の災害に派遣されています。
まとめ
- 災害医療とは「需要と供給のバランスが崩れた状態での医療」
- 救急医療とは根本的に異なる——すべての患者に最善の医療は提供できない
- トリアージは30秒以内の判断が求められる
- 72時間の壁:それ以降は慢性疾患管理・関連死予防が主戦場になる
次回は、災害医療を支える各チーム(DMAT・JMAT・TMAT・日薬など)の役割を詳しく解説します。
≪関連記事≫
0 件のコメント:
コメントを投稿
注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。