2026年6月20日土曜日

能登半島地震に行ってきた——市立輪島病院での7日間【災害医療シリーズ⑨】

 こんにちは、田浦マインドです。

2024年1月1日16時10分、石川県能登半島でM7.6の地震が発生しました。輪島市と志賀町で最大震度7を観測。観測史上7回目の震度7でした。

私は日本病院薬剤師会(日病薬)の「災害登録派遣薬剤師」として、1月16日〜22日の7日間、被災地の市立輪島病院薬剤部で医療支援活動を行いました。


参加の経緯

日病薬の災害医療支援本部は、石川県病院薬剤師会と連携しながらニーズを調査。地域中核病院(災害拠点病院)薬剤部の診療機能維持・サポートを目的として、以下の3病院への支援を決定しました。

  • 珠洲市総合病院
  • 公立宇出津総合病院
  • 市立輪島病院(←私が派遣)

スケジュール

1月16日(火)14:00 石川県庁に現地集合。オリエンテーションと支援活動の引き継ぎを受ける。

1月17日(水) 市立輪島病院へ移動し、支援活動開始。

1月22日(月)12:30 支援活動終了・撤退。


被災地への道中

「自己完結型派遣」が原則のため、1週間分の食料・水・寝袋を個人で用意し、レンタカーを借りて単独で現地へ向かいました(移動時間:約4〜6時間)。

道路状況が不明なため、原則として日中のみ移動。

実際の道路は——ところどころひび割れや段差があり、スピードが出せません。一方通行区間もあり、大渋滞でした。カーナビの地図が現状と乖離していて、地図を片手に運転する場面も。前に車がいないと本当に不安でした。

ちなみに私見ですが、運転は2人以上が望ましいと強く感じました。1人での長距離・悪路運転は疲労リスクが高く、支援者が被災者にならないためにも改善が必要だと思います。


市立輪島病院について

  • 所在:石川県輪島市
  • 開院:1945年(旧建物)、現建物:1997年
  • 災害拠点病院・DMAT指定病院
  • 病床数:175床
  • 薬剤師数:6名(+日病薬より2名派遣)

薬剤部の被災状況

着いて最初に目にしたのは、薬剤部の被災状況でした。

棚が倒れ、医薬品が散乱。冷蔵庫が壊れていました(停電後、非常用コンセントは使えたものの冷蔵庫自体が壊れたため、冷蔵保管が必要な薬剤が破損となりました)。

まず棚と書籍を整理・移動するところから始まりました。


私が行った主な活動内容

  • 薬局の書籍・棚の移動
  • 薬品請求業務
  • 内服・注射調剤の監査
  • エレベーター停止時は点滴を病棟へお届け
  • 抗がん剤の混注(安全キャビネットが使用不可の状況で)
  • 外来患者の診療支援・薬剤情報提供書の取得
  • 処方支援業務
  • 持参薬の鑑別・継続処方の配薬カードセット
  • ERへの夜間ストック薬の補充・配置
  • 一般外来再開のための薬剤準備
  • 薬学部実習生への講義

1日の業務時間は7:45〜19:00。「自分がいることで現地スタッフの負担が減る」という実感が力になりました。


エレベーターが止まる

強い余震(震度4以上)のたびにエレベーターが自動停止し、技術者が金沢から来るまで復旧できません。日中でも4〜6時間、夕方近くなら翌日まで止まることも。

4階への点滴は、スタッフで手分けして階段で運びました。患者の入退院も階段搬送です。

現地で強く感じたのは——「エレベーターが止まっている状況での防災シミュレーション」の重要性です。多くの病院の防災訓練では「非常用電源を使いエレベーターで搬送」を想定していますが、実際には「エレベーターが止まる」ことの方がリアルです。


断水の過酷さ

上水道は少し出る状態(チョロチョロ)でしたが、下水道は完全に使えませんでした。

洗った手の水も流せない。歯磨き後もうがいした水を流せない。トイレも制限。お風呂にも入れない。

そして最も医療に影響したのは——透析・カテーテル処置・手術ができなかったことです。積極的治療が必要な患者は毎日10〜15人、翌朝に金沢市内の病院へ転院搬送されていました。


「昨日まで飲んでいた薬が欲しい」

外来での処方支援業務では、お薬手帳を持たずに「昨日まで飲んでいた薬が欲しい」と来院する患者さんが多くいました。

かかりつけ医に問い合わせしたり、オンライン資格確認システムを利用してレセプトデータから処方歴を確認したり——マイナンバーカードを用いた本人確認で薬の処方歴が確認できるこのオンライン資格確認システムが、今回の支援で非常に有用だと感じました。

処方内容の重複(常用薬処方・災害処方・DMAT処方)の整理も薬剤師の仕事でした。


撤退のタイミングの難しさ

業務的には「そろそろ支援は必要なさそう」と感じるようになった時、それをどう判断し、本部の調整班にどう伝えるか——これが難しかった。

現地の医療機関のスタッフも被災者として避難所から出勤し、現場を支えています。「撤退します」と言いにくい空気があります。

平時から「撤退の判断基準」を明確にしておく必要があると感じました。


災害医療支援に必要な3つのこと

最後に、今回の経験で確信した「災害医療支援に必要なもの」をお伝えします。

① 倫理観:モラルを持ち、患者のプライバシーを守る。

② 積極性:待っていては仕事はこない。「何かできることはありますか?」と自分から動く。

③ 情熱:患者さんを助けたい——という気持ち。医療従事者を目指した時の心を思い返せるかどうか。


まとめ

  • 能登半島地震:M7.6・最大震度7・2024年元旦発災
  • 市立輪島病院薬剤部で7日間の業務支援を実施
  • 断水・エレベーター停止・余震続く環境で診療を継続
  • オンライン資格確認システムが処方支援で有効だった
  • 現地スタッフも被災者であることを忘れてはいけない
  • 必要なのは「倫理観・積極性・情熱」

次回は、「処方箋がなくても薬を出せる?」——災害時の法的根拠について解説します。


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