こんばんは、田浦マインドです。
熊本地震の避難所で最も印象に残っている薬剤師の仕事のひとつが、糖尿病患者さんへの血糖降下薬の調整です。
これは「薬剤師でなければできない仕事」の典型でした。
避難所の食事はこんな感じ
避難所で提供される食事は、炊き出しの内容によって日々変わります。
「朝:バナナ1本、夜:おにぎり2個」という日もあれば、別の日は別の内容、という具合に糖質・脂質・たんぱく質のバランスがバラバラです。
食欲がない方、食べる物自体がない方も多い。まさに「シックデイ(病気の日)」に近い状況が続きます。
低血糖が続出した理由
地震が起こる前の食生活に合わせた血糖降下薬を服用していた患者さんが、避難所での食事摂取中も同じ薬を同じ量で服用し続けました。
結果——低血糖が発生しました。
当然と言えば当然です。普段は毎食バランスのいい食事を摂っていた方が、バナナ1本・おにぎり2個の食事になれば、血糖の上昇幅が全く変わります。それなのに同じ薬を同じ量で飲み続ければ、血糖が下がりすぎてしまいます。
薬剤師の対応
この時、私たちが行った対応は2つです。
① 低血糖リスクのある薬を一時中止
食事状況が落ち着くまでの間、低血糖を引き起こす可能性のある薬を服用するのをやめていただきました。
② 一包化された薬から「抜薬」
薬がワンパック(一包化)になっている患者さんでは、そのパックの中から低血糖リスクのある薬だけを取り出す「抜薬」という作業を行いました。
これは薬の知識がある薬剤師だからこそできる対応です。どの薬が低血糖リスクを持つか、どの薬なら安全に継続できるかを即座に判断できる——これが「避難所における薬剤師の価値」です。
災害時に使いやすい糖尿病薬
この経験から、私が「災害時に使いやすい薬」として注目したのがDPP-4阻害薬です。
DPP-4阻害薬は、血糖値が高い時だけ血糖を下げ、血糖値が低い時は血糖値を下げないという特性を持ちます。つまり、食事摂取量に関わらず処方しやすく、低血糖リスクが低い。
災害時でも使用しやすい薬です。
さらにDPP-4阻害薬の中でも「リナグリプチン」は特に使いやすい。理由は、肝機能や腎機能に関係なく投与量が一定(5mg)だからです。
避難所での診察では血液検査がほぼできません。患者さんの肝機能・腎機能が正確にわからない状況で薬を処方しなければなりません。リナグリプチンは胆汁排泄型のため、腎機能・肝機能の状態がわからなくても処方しやすい——これが大きなメリットです。
DPP-4阻害薬の排泄経路の違い
参考までに、主なDPP-4阻害薬の排泄経路をまとめます。
- シタグリプチン:腎臓87%
- ビルダグリプチン:腎臓85%
- アログリプチン:腎臓65%
- リナグリプチン:胆汁90%(←腎機能影響を受けにくい)
- テネリグリプチン:腎臓45%
腎排泄型の薬は腎機能が低下すると蓄積リスクがあります。災害時は血液検査できないため、胆汁排泄型のリナグリプチンが最も使いやすいという結論に至りました。
薬剤師がいなければわからないこと
「どの血糖降下薬が低血糖を起こしやすいか」「避難所の食事状況でどう調整すべきか」「どの薬なら腎機能不明でも安全に使えるか」——これらは医師だけでは判断しにくいことです。
薬剤師の専門知識が、避難所での患者さんの安全を守ります。
「薬剤師はただ薬を渡すだけ」——そんな誤解が少しでも解けることを願っています。
まとめ
- 避難所の食事は栄養バランスが日々変わり、血糖コントロールに影響する
- 同じ薬を同じ量で継続すると低血糖が発生する
- 対応:リスクのある薬を一時中止、または一包化から「抜薬」
- 災害時に使いやすい糖尿病薬はDPP-4阻害薬、特にリナグリプチン
- 胆汁排泄型は腎・肝機能がわからない環境でも使いやすい
次回は、「同じ薬が何種類も混在した」問題と、現場での薬の工夫についてお伝えします。
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