2026年6月19日金曜日

「薬事トリアージ」赤・黄・緑で命を守る判断【災害医療シリーズ⑧】

 こんばんは、田浦マインドです。

「避難所に来た人が『薬が切れた』と言っている。どの薬を優先して手配すればいい?」

これが「薬事トリアージ」の出番です。医療トリアージが傷病者の重症度を分類するように、薬事トリアージは薬剤継続の緊急度を分類します。


薬事トリアージとは

処方箋・お薬手帳がない状況でも、薬剤師が即座に「この薬は今すぐ必要か、数日待てるか」を判断して行動するためのフレームワークです。

分類は医療トリアージと同じ3色です。


🔴 赤(最優先)——今すぐ確保

基準:中断すると数時間〜数日以内に生命危機

代表的な薬剤:

  • インスリン(注射・内服):3日中断で高血糖性ケトアシドーシス(DKA)→死亡リスク
  • 抗凝固薬(ワーファリン・DOAC):脳梗塞・肺塞栓→突然死リスク
  • 抗てんかん薬:痙攣重積→脳障害・窒息リスク
  • 抗精神病薬・気分安定薬:急性精神症状再燃・自傷他害リスク
  • 透析患者の薬(リン吸着薬等):電解質異常→致死性不整脈
  • 副腎不全ステロイド:副腎クリーゼリスク

対応:今すぐ確保。医師へ緊急連絡。代替薬を至急手配。


🟡 黄(優先)——48〜72時間以内に対応

基準:中断すると数日〜1週間以内に症状悪化

代表的な薬剤:

  • 降圧薬(特に合併症あり):血圧コントロール悪化
  • 心不全治療薬(利尿剤・βブロッカー):急性増悪リスク
  • COPD・喘息の吸入薬:発作・呼吸不全
  • 甲状腺薬(レボチロキシン等):代謝異常
  • ステロイド長期内服者:離脱症状
  • パーキンソン病薬:症状急激悪化

対応:近隣薬局・卸業者に照会。数日分を緊急確保。


🟢 緑(待機可)——1週間以内に対応

基準:数日〜1週間程度は待機可能

代表的な薬剤:

  • ビタミン・サプリメント・栄養補助食品
  • 軽度の鎮痛薬(安静で対応可能な場合)
  • 皮膚科・眼科の一般外用薬
  • 軽度の不眠・不安の薬(症状が軽い場合)
  • 胃腸薬・整腸剤(軽症)

対応:記録して保留。供給が安定してから対応。


判断のコツ——よくある迷いどころ

Q. ワーファリンは赤?黄?

→ 基本は黄。ただし「最後の服薬から3日以上経過」「動悸・胸痛あり」なら赤扱いで即対応。

Q. 血圧の薬が切れたが症状なし

→ 残薬がある間は緑。残薬がゼロになる日を計算して、切れる前に黄として対応開始。

Q. 抗精神病薬、本人が「大丈夫」と言っている

→ 赤。本人の自覚では判断しない。離脱症状・症状再燃は急速に進行する。

Q. 複数の薬が切れた患者、何から対応する?

→ 薬ごとに個別にトリアージ。インスリン+降圧薬なら、インスリンを赤として先に対応。

Q. 緑だったが翌日来て「めまいがする」

→ 再評価して黄または赤に昇格。状態は常に変化する。1回の判断で終わりにしない。


実際の場面を想定してみよう

患者Aさん(68歳・男性)

「インスリンを3日間打てていない。口が渇いて体がだるい」

常用薬:インスリン グラルギン10単位/就寝前 + メトホルミン250mg毎食後

→ 🔴 赤。 DKAの前兆(口渇・倦怠感)あり。今すぐ医師に連絡。インスリン・針・血糖測定器を緊急確保。メトホルミンは黄として48時間以内に対応。


患者Bさん(72歳・女性)

「ワーファリンが今日で切れる。心臓の病気がある」

常用薬:ワーファリン2mg 1錠 夕食後

→ 🟡 黄。 今日切れたばかりなので即死ではないが、数日以内に血栓リスクが上昇。48時間以内に確保。近隣薬局・卸に照会。INR測定不可でも継続優先。


患者Cさん(55歳・男性)

「血圧の薬が切れた。今は頭痛もない」

常用薬:アムロジピン5mg 朝1錠(残薬:3日分あり)

→ 🟢 緑。 残薬で経過観察。3日後に切れる前に黄として手配開始。


ポケットカードを持っておこう

薬事トリアージは判断が速いほど命を守れます。迷った時のために「赤・黄・緑の代表薬一覧ポケットカード」を事前に作成しておくことをおすすめします。

「赤か黄かを素早く見分けるコツ」は——「中断で即座に症状が出るか」「その場で医師を呼ぶべきか」「3日以上途絶えているか」の3点です。


まとめ

  • 薬事トリアージ:薬剤継続の緊急度を赤・黄・緑で分類
  • 赤:インスリン・抗凝固薬・抗てんかん薬・抗精神病薬・透析患者の薬
  • 黄:降圧薬(合併症あり)・心不全薬・吸入薬・甲状腺薬・ステロイド
  • 緑:ビタミン・サプリ・軽度鎮痛薬・一般皮膚科・眼科薬
  • 判断は一回で終わらない——継続的に再評価する

次回は、2024年能登半島地震での派遣体験をお伝えします。


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