2026年6月15日月曜日

避難所で薬剤師がやること【環境整備・DVT予防・ゾーニング】【災害医療シリーズ④】

 こんばんは、田浦マインドです。

「災害時に薬剤師って何をするの?」

この質問、とても多くいただきます。今回は「薬を渡すこと以外」の薬剤師の仕事——避難所での環境整備活動について、熊本地震の経験をもとにお伝えします。


薬剤師の活動は「薬を渡すだけ」じゃない

災害現場での薬剤師の主な活動はこの4つです。

  1. 被災地に持参する医薬品の手配・管理
  2. 仮設診療所での調剤・服薬指導・DI業務
  3. 避難所への巡回診療に同行し、調剤・服薬指導・DI業務
  4. 環境整備など公衆衛生活動

4番目の「公衆衛生活動」——これが意外と知られていません。でも実は避難所での健康被害を防ぐ上で、非常に重要な仕事です。

「薬剤師の日常業務ですよ!」


避難所の環境アセスメント

避難所では衣食住が同一の環境になります。

土足が続くと手指が汚れ、様々な悪影響を引き起こします。喘息・気管支炎などの呼吸器疾患、ノロウイルスなど感染症蔓延の原因にもなります。

そこでTMATでは巡回診療時に「環境アセスメント」も行いました。具体的なチェック項目はこちらです。

  • トイレの環境と清掃、上下水道の復旧状況
  • 手洗い環境、ペーパータオルの設置
  • 手指消毒液の設置および感染予防の啓発活動
  • ゴミ置き場の区分けと管理
  • 大規模な避難所でのゾーニング(土足区域・非土足区域の区分け)

ゾーニングとは

ゾーニングとは、特定の目的のために区域を指定することです。

災害におけるゾーニングは主に2つの目的があります。

  1. 汚染の拡大を防ぎ、二次災害を防止する
  2. 被災者の動線を整理し、救助・救護活動を効率化する

熊本では2か所の避難所でゾーニングを実施しました。

作業はこうです。避難者の荷物を一旦すべて移動→清掃・消毒→区域を分けて再び荷物を移動。

これが想像以上に大変な作業でした。でも、感染症の拡大を防ぐためには欠かせません。


断水の中でのトイレ問題

熊本では断水が続きました。

トイレに水が流せない状況では、支援物資として届いた水を便器の給水タンクに補充して使用します。

大便をすると限りある水を多く使わなければならないため、大便を我慢している人が多く出ました。

結果として——被災から5日目頃から、便秘をして腹痛を訴える患者様が増え始めました。

これも災害関連の健康被害のひとつです。「水がない→排泄を我慢する→便秘→腹痛」という連鎖。


エコノミークラス症候群(DVT)との闘い

前回もお伝えしましたが、車中泊者を中心にエコノミークラス症候群(DVT:深部静脈血栓症)のリスクが非常に高まっていました。

DVTのリスクが高まる状況

  • 長時間同じ体勢
  • 水分を摂らない(トイレを我慢するため)
  • 狭い空間での生活

熊本地震ではDVTによる関連死も報告されています。

毎朝の予防体操は、理学療法士が主導で実施しました。薬剤師としては、DVTリスクが高い患者(特に抗凝固薬を服用している方)を把握し、医師・看護師と情報を共有することも大事だなと思いました。


ノロウイルス対策ポスターを手作り

断水状況では手洗いができません。手指消毒の使用を積極的に促しながら、保健センターの保健師さんと協力してウイルス性腸炎(ノロウイルス・ロタウイルス)予防のための啓発ポスターを手書きで作製しました。

また、ウイルス性腸炎の患者が出た際の隔離室も設置しました。

「感染症の蔓延を防ぐ」——これも薬剤師にできる重要な仕事です。


段ボールベッドが命を救う

最近の災害支援では「TKB48」という概念が注目されています。

T(トイレ)・K(キッチン)・B(ベッド)——この3つを発災後48時間以内に避難所へ届けることを目標とする国際標準の指標です。イタリアではこれを実現し「災害関連死ゼロ」を達成しています。

特に「B(ベッド)」、段ボールベッドの効果は絶大です。

床寝の問題点を整理すると——

  • 床からの冷気が直接伝わる(低体温・免疫低下)
  • 長時間同じ体勢でDVT発症リスクが上昇
  • 床から20cmまでほこりが舞い上がる(NHK実験)
  • 床の硬さ・物音の振動で睡眠の質が低下

段ボールベッドは保温・DVT予防・衛生改善・睡眠改善の効果があり、荷物の収納スペースにもなります。耐荷重は約500kg——一見弱そうに見えて、非常に頑丈です。

薬剤師として「この患者さんにはベッドが必要です」と声を上げ、行政・看護師・保健師と連携して優先配置を実現させる——これも立派な薬剤師の仕事です。


まとめ

避難所での薬剤師の環境整備活動:

  • 環境アセスメント(トイレ・手洗い・消毒・ゴミ管理)
  • ゾーニング(汚染区域と非汚染区域の分離)
  • DVT予防体操の支援と高リスク患者の把握
  • 感染症予防ポスター作製・隔離室設置
  • 段ボールベッドの普及推進(TKB48)

「薬を渡す」だけではない——環境整備こそが、災害関連死を防ぐ重要な薬剤師業務です。

次回は避難所で実際に起きた「血糖降下薬問題」をリアルにお届けします。


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